(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「アルカリ」壁ノ花団第四回公演

劇団MONOの役者水沼健が作・演出を手掛けるユニット壁ノ花団の新作。昨年11月の京都公演で、作品が十三夜会奨励賞を、また出演者のF.ジャパンと亀井妙子が第11回関西現代演劇俳優賞を受賞というちょっとした鳴り物入りでの東京公演だ。
30個あまりの古びた茶色の皮製トランクが乱雑に散らばる空間。ふたりの男とひとりの女は、戦争が終っても、その閉ざされた場所に留まり続けていた。そこに、ひとりの女がやってくる。彼女は捕虜収容所を出て、そこに立ち寄ったという。教師だった父のあとを継ぎ、故郷で子どもたちに戦争体験を教えようとする彼女だったが、自分のトランクを見失い、やがて記憶までも失くしていき、そこから出られなくなってしまう。
小さすぎて着られないシャツ、食べ物はバナナとくると、女を迎える3人の男女は子どもたち、つまり戦争孤児なのだろうか。壁ノ花団の芝居は初見だが、観る者の捉え方を束縛しないように作られたお芝居とみた。なので、観客には安易に優しくない。
もどかしさをおぼえたり、退屈な箇所もあるが、ほぼ1時間の舞台を観終えると、胸の奥に自然と湧いてくる何かがある。倒れたり、ぶつかったりする音がちょっとけたたましいけれど、トランクの使い方も面白いと思った。
しかし、おそらく舞台はヨーロッパ、それも二次大戦直後を想定して作られているのだろうが、観る側としては掴みどころのない距離感を目の当たりにするようで、正直戸惑ってしまう。舞台と観客との時空の隔たりをもう少し狭める工夫があってもいいように思うのだが。(65分)※31日まで。

■データ
来年の支援会員をついでに申し込んだソワレ/こまばアゴラ劇場
3・25〜3・31(9ステージ)※東京公演
作・演出/水沼健
出演/内田淳子、亀井妙子、金替康博、F.ジャパン