(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「光の帝国」演劇集団キャラメルボックス 2009ハーフタイムシアター

久々に足を運んだ前回のハーフタイムシアターで、2本続けて泣かされました、わたし。今回の「光の帝国」は、一昨年キャラメルボックスに「猫と針」を書き下ろした恩田陸の原作もの。原典にあたる「常野物語」は連作で、本作はそのシリーズの幕開きの一編(現時点で唯一の短編集「光の帝国」の冒頭に収録されている「大きな引き出し」)を成井豊と真柴あずきが戯曲化している。

小学4年生の春田光紀には、読んだものを「しまう」力があった。古事記枕草子平家物語も、一度読んだだけで完璧に暗記できるのだ。実は、光紀の両親も、姉の記実子も、同じ能力を持っていた。記実子は中学1年生で、近頃はシェイクスピアの原文を「しまう」のに凝っている。10月、光紀は学校から帰る途中で、一人の老人が道端に倒れるのを目撃する。慌てて駆け寄り、老人の肩を支えると、様々な映像がドッと流れ込んできた。それは、老人の七十年に及ぶ、人生の記憶だった……。(キャラメルボックスのサイトより引用転載)

ファンタスティックな恩田陸の原作を、わかりやすく、ビビッドに伝える舞台。独立した物語としても楽しめるし、年代記もののプロローグとしても(その後に続くであろう不思議な能力をもつ家系の物語への)期待が膨らむ。コンパクトにまとまっているし、甘酸っぱいキャラメルらしさもあって、悪くない仕上がりだと思う。シンプルでスムースな場面転換など、演劇らしいテンポの良さも随所に活かされている。
ただ穿った見方をすれば、畑中智行のあまりに主人公然とした物分りの良さがちょっと嘘くさくも思えるが、溌剌としたキャラを前面に押し出した岡内美喜子の姉役が、その弱点を中和している。前作(「ハックルベリーにさよならを」)でもきわだって輝いていた岡内美喜子だけど、今回もいきいきとした存在感がいいですね。
恩田陸の世界とハーフタイムシアターの相性はかなりいいようで、一作だけではもったいない。原典にならい、連作化したら面白くなるのでは、と思ったりもする。(65分)※3月29日まで。大阪公演はすでに終了。

■データ
エレベーター前の導線がやたら混乱していたソワレ/新宿FACE
3・5〜3・29
原作/恩田陸「大きな引き出し」(「光の帝国」所収) 脚本・演出/成井豊+真柴あずき
出演/畑中智行、岡内美喜子、坂口理恵、大内厚雄、阿部丈二、小林千恵、小多田直樹、井上麻美子、鍛治本大樹