「しとやかな獣」オリガト・プラスティコvol.4/M&O playsプロデュース
前作からほぼ2年半ぶり。既存の戯曲を上演するのが習いのオリガト・プラスティコがとりあげたのは、なんと、昭和37年の大映映画「しとやかな獣」である。新藤兼人の脚本を映画化した川島雄三監督の代表作中の代表作といわれる作品だ。
郊外にある団地に住まう前田一家。元軍人の夫の時造とその妻よしのは、いま家中の金目のものを隠そうと、ふたりで片付けに励んでいる。そこに乗り込んできたのは、芸能プロの社長香取と秘書の幸恵。香取は、前田家の長男実を探しに家までやってきたのだ。彼の下で働く実が、集金した金をネコババしたというのだ。ひたすら怒る社長をのらりくらりとかわす老獪な前田夫妻。
一方、前田家の長女友子は、売れっ子の小説家吉沢の二号に収まっていたが、前田一家のたかり体質に嫌気がさした吉沢に愛想をつかされそうになっている。しかし、前田家を訪れた吉沢に、まだ娘への未練があるとみた時造は、なんとかそれを繋ぎとめようとする。
ところが、モラルに欠ける前田家のさらに上を行く存在が、芸能プロの秘書幸枝だった。彼女は長男の実をたらしこみ、貢がせただけではなく、社長の香取や税務署員もその気にさせ、巻き上げた金を旅館建設に注ぎ込んでいたのだ。
原典映画の時代背景や登場人物、プロットにほとんど手を入れず、ケラはそのまま舞台に乗せているが、それが見事図に当たった恰好だ。とりわけ、近藤公園とすほうれいこの兄妹の台詞が素晴らしく、レトロな時代の空気を鮮やかに蘇らせる。
ピカレスクな前田一家の面白さおかなりのものなのに、それをさらに圧する緒川たまきの堂々たる佇まいと存在感が見事だ。前回公演はウディ・アレンをとりあげて、このチームにとってはちょっとちぐはぐな印象が強かったが、今回は座長の広岡由里子もいい感じで物語にはまっている。(100分)※東京公演は8日まで。その後、新潟、大阪公演あり。
◇映画と舞台版のキャスティング比較
- (三谷幸枝・秘書役) 若尾文子 → 緒川たまき
- (前田時造・父親役) 伊藤雄之助 → 浅野和之
- (前田よしの・母親役) 山岡久乃 → 広岡由里子
- (前田実・長男役) 川畑愛光 → 近藤公園
- (前田友子・長女役) 浜田ゆう子 → すほうれいこ
- (香取一郎・芸能プロ社長役) 高松英郎 → 佐藤誓
- (ピノサク役) 小沢昭一 → 山本剛史
- (神谷栄作・税務署員役) 船越英二 → 玉置孝匡
- (吉沢駿太郎・作家役) 山茶花究 → 大河内浩
- (マダムゆき役) ミヤコ蝶々 → 吉添文子
■データ
開演直前に客席に赤トレーナーのケラが駆け込んできた初日ソワレ/新宿紀伊國屋ホール
1・29〜2・8(東京公演)
作/新藤兼人 演出/ケラリーノ・サンドロヴィッチ
出演/浅野和之、緒川たまき、広岡由里子、近藤公園、すほうれいこ、佐藤誓、大河内浩、玉置孝匡、山本剛史、吉添文子