「片手の鳴る音」サスペンデッズ
若い才能の発掘を目指すシアタートラムのネクスト・ジェネレーションvol.1。似たネーミングの企画は、三鷹芸術文化センターにもあるが、こちらは39団体からのエントリーを受けて、昨年6月に実行委員会が最終の3団体に絞った。サスペンデッズは、そのトップバッターとしての登場。
亡き父親の跡を継いで理髪店を経営している義男。姉の広子は結婚して家を出ている。幼馴染みの克己や、その妹の里美とは今も仲がよく、シングルマザーの里美の息子は義男になつき、ひとりでお泊りに来たりもしている。
ある日、広子が実家に帰ってきた。訊くと、夫が浮気をしていたらしい。しかし、義兄によればそれは濡れ衣のようだ。それでも離婚したいと言い張る広子。母親について何も憶えていない義男だが、母親はDVで、両親の離婚の原因も、その母の性癖だったのだ。母親の記憶がトラウマとなって、広子は子どもを作ることに恐れを抱いていた。
サスペンデッズは、早船聡を中心に円出身の男性役者が2005年秋に結成した劇団。わたしは、前回公演が初見だが、ほかに新国立劇場のシリーズ・新時代の早船作の「鳥瞰図」も観ている。「片手の鳴る音」は、初めて劇団が赤字を記録した演目の再演らしいが、十分に捲土重来を果たしたのではないか。
ありふれた人間関係から分け入り、そこに拡がる濃やかなしがらみや過去を炙り出していく。派手さはないが、人生の機微に通じた物語が素晴らしく、ひとつの事件を通じて、登場人物がそこから成長していく姿が暗示される。若手とは思えない老成も感じられ、ふと似たタイプとしてグリングを思い浮かべたりもする。次回の三鷹も、とても楽しみだ。(100分)
■データ
前日にネット予約したのに最前列だったソワレ/三軒茶屋シアタートラム
1・24〜1・25
作・演出/早船聡
出演/佐藤銀平、伊藤総、佐野陽一、冠野智美、白州本樹、伊藤留奈