(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「すてるたび」五反田団第36回公演

四人の役者と四脚の折りたたみ椅子。アブストラクトに描かれるシンプルきわまりない五反田団の新作。
黒田大輔演じる少年は、三人兄弟の末っ子のようだ。上にいる長男(前田司郎)と長女(後藤飛鳥)からは、子ども扱いされたり、からかっておもちゃにされたり。父親の箱を覗いたことがバレて叱られ怯えたり、兄にそそのかされて、父親に秘密でタロウという可愛い(しかし謎の)生き物をこっそり飼ったりもしている。
ふと気がつくと、彼は家族と旅に出ている。大人になったのだろうか、傍らには妻(安藤聖)がいる。父親はすでに亡くなっており、間際は妻がほとんどひとりで面倒をみてくれていたらしい。温泉につかりながら、長女は弟の妻に感謝する。しかし、なぜか、抜け出ることのできない穴地獄や海の底という苦難が、次男を待ち受ける。
この話はどこに行くのだろうか、という思いが終始頭の中を去来する。いや、そもそも物語のシチュエーションさえ、曖昧だ。つまり、観客に解釈をゆだねる部分が非常に多い(というか、全部かも)。なので、わたしも勝手に解釈すると、これは黒田大輔扮する少年のひとり遊びなのではないか。ひょいと顔を出す家族との旅行や、病床の父といった出来事は、彼の心に刻まれた人生のマイルストンのようなものなのだろう。
兄と姉はいるが、年齢も離れて、ぽつんとひとり遊びをすることが多い末っ子が彼。ひとりで遊びながら、思考が自在にさまよう様には、少年ゆえのリアリティがある。面白いのは後半で、すでに彼は大人になのに、彼の漂うような思考の彷徨は果てしなく続いていく。それが妄想というよりは、最後まで夢であり続けるあたりがとても心地よかった。(80分)

■データ
ほとんどワンマンで超絶技巧の大活躍をみせる黒田大輔に拍手の土曜日マチネ/五反田アトリエヘリコプター
11・15〜11・25
作・演出/前田司郎
出演/安藤聖、黒田大輔(THE SHAMPOO HAT)、後藤飛鳥、前田司郎