(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「とける」ブルドッキングヘッドロックvol.15

5月に同じ会場で上演された「役に立たないオマエ」の続編にあたる。前作がある地方の公立高校の春から秋を、本作は冬から春の訪れまでを描いている。当日パンフに、主宰は半年を描いたと書いているが、物語の中では移りゆく一年という月日が流れている。
幽霊部員も多いし、アニメやマンガが好きなだけの部員もいて、別に賑わっているわけではない美術部の部室。しかし、吹奏楽部、放送部、バスケ部の顧問や生徒たち、さらには帰宅部のものまでもが何かとやってくる。冬のある日、ちょっとした事件が起こった。誰かが投稿したプロフがきっかけとなって、ひとりの女生徒をヤリマンと揶揄する誹謗中傷の風評が流れたのだ。教師たちは、そんな事態になすすべもない。
騒ぎを醒めた目で眺める美術部の顧問松山には、大きな挫折を味わった過去があった。恋人のとてつもない才能の前に屈し、彼は高校の美術教師に職を求めた。しかし、表面的には教師として生徒たちと接しながらも、可能性を秘めた生徒たちの若さに嫉妬をたぎらせる松山は、生徒が部室に置き忘れた携帯電話を使って、同人作家で生徒ブログ荒らしをしていた。
ああいうこともあった、こういうこともあった、と観る者に十代の一時代を懐かしく思い出させる、学園ものの秀作だと思う。ごった煮的なエピソードのてんこ盛りもアクの強い彼らの持ち味として評価できるが、高校生活の喧騒や匂いをきっちりと背景に捉えているのが素晴らしいところだ。SEの生徒たちの嬌声や部活の騒音に、なんともいえない臨場感をおぼえてしまう。
登場人物たちの心に淀む悪意を炙り出すダークな色合いは、前作を遥かに上回るエグさだが、それを描かなければきっちりとした幕切れにならないという主張がしっかりと伝わってくる。きれいごとでは終わらないというスタンスを貫きながらも、色々な出来事があった、それでも歳月は流れていくという達観のようなものが伺える幕切れも悪くない。(140分)

■データ
前方の座席(確かB列。前売り、指定席なので選べないのに。次回はぜひ再考を)が非常に座りにくくて難儀したソワレ/新宿御苑サンモールスタジオ
11・13〜11・24
作・演出/喜安浩平(ナイロン100℃)  共同演出/篠原トオル
出演/西山宏幸、寺井義貴、山口かほり、小島聰、永井幸子、猪爪尚紀、藤原よしこ、三科喜代、岡山誠、篠原トオル、清水洋介(SpaceNoid)、岩堀美紀、黒木絵美花、伊藤聡子、國武綾、佐島由昭、佐藤幾優(boku-makuhari)、いせゆみこ