(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「リズム三兄妹」岡崎藝術座

というわけで、リズム三兄妹の物語としては、こっちがメイン(?)の本編。家を出て、同性の恋人(坂倉奈津子)と暮らしているリズム三兄妹の姉(白神美央)。働きに出ている相手の帰宅を、ひがな一日、ぼんやりとテレビ観ながら待つだけの気だるい日々。ふたりの関係は、とっくに冷めてしまっているように見える。
一方、三兄妹の長男利頭武(鷲尾英彰)は、あるとき一家を挙げて応援している歌手の巣恋歌(西田夏奈子)が、最近ちょっと様子がおかしいことに気づく。彼女の歌うリズムが、どこか微妙に狂っているのだ。妹の夢子(内田慈)と打ち合わせ、本人に気づかせようと画策する兄。その妹は、友人のショウコ(召田実子)から恋の相談をうけている。夢子は、ショウコにリズム感がないことを指摘し、それを直せば恋も成就すると助言するが。
わたしは、早朝公演のスピンオフから入ったので、そもそも兄妹の長女(白神美央)が兄や妹と分かれて暮らし、倦怠の日々を送っているというシチュエーションが唐突に映り、物語に入りづらかった。三兄妹のありし日(はやねはやおき朝御飯)とその後(本作)を勝手に頭の中で対比させてみるが、時間の流れや兄弟の絆といった既定の尺度ではどうも捕らえにくい。
そんな掴みどころのない全体の作りで、家を出た長女と残りの兄妹(武と夢子)の間にはさやかな繋がりもあるのだが、三兄妹のエピソードは点景のように散りばめられている印象で、それぞれ接点があったり、接点がなかったり。戸惑う場面も多いが、兄妹のひとりひとりをショーケースととらえるならば、わたしはリズムの重要性、そしてそれがもたらす飛躍についてとうとうと捲くし立てる夢子のアジテーションに惚れ惚れした。
ほぼ一人勝ちのの夢子を中心に据えて眺めるわたしの目には、共鳴する兄妹の引力圏を離れリズムを失ってしまったのが長女、妹との共鳴でますます自分の感性を研ぎ澄ます長男、いくら伝えようとしてもやはり奥義は伝わらず恋を成就できないまま体の関係に堕ちてしまった友人のショウコという風に映るのだが、どうだろう?いずれにしても、観る人ごとに無限のような解釈ができる舞台の作りであることは間違いない。
それにしても、「はやねはやおき朝御飯」の尋常ではない三兄妹のハイテンションが、どうしても忘れられない。三人の絆が暴走するような別のエピソードをぜひ観てみたい気がするのだが。(80分)
■データ
渋谷でコーヒー飲み、駒場に戻ってカレー食べて臨んだ同日マチネ/こまばアゴラ劇場
10・30〜11・10
脚本・演出/神里雄大
出演/内田慈、鷲尾英彰、白神美央、億土点、坂倉奈津子、召田実子、西田夏奈子