(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「ヒッキー・カンクーントルネード」ハイバイ オムニ出す(常/いつもの)

まるで劇団の(というか岩井秀人の)現時点の立ち位置確認のような4テーマを掲げた連続上演。四作とも観ておきたいのはやまやまだが、仕事の修羅場が続いたせいで、気がついてみればセット券はすでに売り切れ。行ける日分の前売りもソールドアウトとなれば、やむなく受付開始前から当日券の列に並んでの観劇となった次第。
引き篭もりの少年とその一家の物語。引き篭もりになってずいぶんと久しい、プロレスラーに憧れる登美男(岩井秀人)。父親は単身赴任だか別居だかで分かれて暮らしている様子だが、なんとか少年を世間に引き出そうとあれこれ試みる母親(平原テツ)と、兄の引き篭もりを暖かく見守り、プロレス談義につきあう妹の綾(端田新菜)。形は違っても、どちらも少年を慮る優しい家族たちだ。
あるとき、母はひとりの青年(坂口辰平)を家に連れてくる。友達づきあいを通じて登美男の目を世間に向けようと、母親が雇った出張お兄さんだ。しかし、登美男に馴染んだのはいいが、青年はいい影響を与えるどころか、自分が登美男に巻き込まれ、居ついてしまう始末。実は彼は引き篭もりのプロじゃなく、自分も心に病を抱える患者のひとりだった。替わってやってきた女性カウンセラー(川田希)の手引きで、重たい腰をあげた登美男は、買い物のために外出するが、どこでどう間違ったのが血だらけ、ボコボコにされた体で帰宅する。
主宰岩井の自伝的にして、ハイバイの原点ともいうべき作品。わたしは、初演時のものを映像で観ただけで、それも細部はずいぶんと忘れていたが、おおよその筋は知っているにもかかわらず、観ているうちにぐいぐい引き込まれた。引き篭もりをめぐる母と妹の意見の対立やそれぞれの主人公とのかかわり方など、濃やかに描かれる家族愛のさまざまな形が心にしみる。
キャスティングでは、妹役に端田新菜が復帰しているのが嬉しい。彼女の兄思いの妹役は絶品で、大げさではなく、しみじみと兄への思いを自然に表現してみせる。天性とでもいいたくなるような妹キャラだ。あと、ハイバイの持ち味を地でいくような坂口辰平のアクの強いへなちょこ感も印象に残りました。
過去に映像してみておらず、しかも曖昧な記憶での比較で恐縮だけど、今回の再々演は、かなりブラッシュアップされた感じで、彼らとしては完成形に近いんじゃないでしょうか。ビミョウに寸止めな幕切れ(主人公が、町にやってきたみちのくプロレスを観に行くかどうかの一歩手前)も絶妙。(50分)

■データ
リトルモア前を怪しい通行人がやたら行き来したソワレ/原宿リトルモア地下
10・19〜11・5
作・演出/岩井秀人
出演/端田新菜(青年団)、平原テツ、岩井秀人、坂口辰平、川田希