(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「いさかい」tpt68

この劇場ももうすぐなくなってしまうのですね、ベニサン・ピット。何度行っても迷ってしまう住宅街のど真ん中というロケーションだったけど、アンダーグラウンドな劇場空間の雰囲気には独特のものがありました。
男はみな浮気者と言い放つ恋人エルミアンヌ(濱崎茜)に対し、王子(塩野谷正幸)はある実験をしてみせると宣言する。深い森の中で、赤ん坊のころから他の人間と一切接触せずに育てられた4人の男女。それぞれが年頃になって異性同士が引き合わされ、たちまちのうちに2組のカップルが出来上がる。しかし、問題はこれから。さらにこの男女同士が出会ったとき、先に得たパートナーに飽き、もうひとりの異性に惹かれてしまうのは、果たして男なのか、女なのか?
時代が変われども、恋におちた男女というのは、厄介なものだ。作者のピエール・カルレ・ド・シャンブラン・ド・マリヴォー(う、略さないと長い…)は18世紀フランスの劇作家らしいけれど、この「いさかい」で扱われる、不実なのはどっちの性なのかというテーマは、ふたつの世紀を跨いだ今でもちっとも色褪せていない。性別じゃない、すべては人間に共通する業がなすのだ、とあからさまに言ってしまえば身も蓋もないが、マリヴォーはこのテーマをロマンチシズムにくるみながら、しかしとびきり残酷に描いてみせる。
古典の格調を保ちながらも、現代の観客も飽かせない表現方法の工夫があって、黴臭さはほとんど感じられない。イノセントでありながら、性的なものに貪欲なエグレ役を豊穣に演じる毬谷友子が、ひたすら観客の目をひきつける。ややもすると、ひとり浮いてしまている印象すらある彼女だが、恋愛感情というものの本質を表現するに、瑞々しさを失わない毬谷の過剰さほど相応しいものはないとも思わせてくれる。(95分)

■データ
ガムテープで表現される川のイメージが新鮮だった楽日ソワレ/森下ベニサン・ピット
10・10〜10・22
原作/マリヴォー 台本/木内宏昌 演出/熊林弘高
出演/毬谷友子田島亮渡辺真起子藤沢大悟、濱崎茜、松平英子、杉内貴、藤川洋子、塩野谷正幸