(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「どんとゆけ」渡辺源四郎商店第8回公演

あれよあれよという間に目前まで迫った裁判員制度。この制度が、わが国の司法のしくみとして前進になるかどうかは判らんけど、さらにそのもう一歩先を先取りするような渡辺源四郎商店の新作。
津軽地方の田舎町。主婦のしの(工藤由佳子)は、ふたりの来客を自宅に迎える。拘置所の保安課長北林(ささきまこと)に連れられたやってきたのは、死刑囚の栗田(工藤良平)だった。ロープに繋がれた栗田は、10年前に空き巣に入った家で、居合わせたその家の父と子どもを刺殺してしまい、すでに裁判で死刑が確定している。しのの家にやってきたのは、死刑執行員制度に基づく死刑を執行するためだった。
やがて、立会人のふたりもやってくる。咲子(工藤静香)は被害者一家の妻、一郎(牧野慶一)はその義理の父親だった。いかにも公務員らしい段取りの良さで、制度のパンフレットで説明しながら、粛々と死刑執行への手続きを取り仕切る北林。それぞれの思いが入り乱れる中、いよいよその時間が近づいてくる。
登場する死刑執行員制度という架空の法制度は、ややもすると荒唐無稽にも思えるが、間近に迫った裁判員制度の施行や、死刑制度をめぐる議論の出発点とするには、絶好のアイデアになっている。無念の思いにとらわれる遺族や、末期の時を目前にした死刑囚に留まらず、死刑に携わる人々や第三者までの葛藤が、さまざまな形で噴出していく様子を克明に描いている。シリアスなテーマを扱いながら、軽妙な笑いをまぶすうまさも、さすがナベゲン、絶品だ。
自宅の二階を死刑の場所として提供するしのが、死刑囚と獄中結婚していることはすでに前半で明らかになるが、その彼女の人物的な背景が一気に明らかになるクライマックス直前のくだりは、そこまでの彼女の不可解さを一気に解き明かす面白さがあって、物語のしめくくりとしては非常に効果的。そのあとにやってくる無常にも似た死の重み伝える幕切れも、観る者の心にぬぐい去り難い余韻を残す。(90分)※青森公演は終了、年明け2月に広島公演が予定されている。

■データ
作中で登場人物たちが興じるゴニンカン(五人間)という津軽独特のトランプゲームがやけに面白そうだった東京初日ソワレ/こまばアゴラ劇場
10・16〜10・19(東京公演)
作・演出/畑澤聖悟
出演/工藤由佳子、工藤静香、工藤良平〈高坂明生とダブルキャスト〉、ささきまこと、牧野慶一(劇団雪の会)、畑澤聖悟