(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「難民X」tsumazuki no ishi

このお芝居を観て、神戸大震災は遠くなりにけり、などと感慨にふけった矢先の兵庫県知事の「東京に地震が来ればチャンス到来」発言。公人として、というか人間としてあるまじき物言いだよね、ありゃ。怒るのは、おそらく東京の人間じゃない。神戸で被災の経験がある人々だと思う。
大規模な地震に襲われてから数年が経過した被災地。町もほとんど復興し、震災の爪跡も消えようとしている。しかし、避難場所の小学校の片隅で、今もたむろする人々がいる。難民であることをいいことに、社会復帰などどこ吹く風。やる気のないボランティアを含めて、彼らはその日暮らしののほほんとした生活を楽しんでいる。
二村(寺十吾)は、そんな難民のひとりだ。彼は、先の震災で家族を失ってしまったが、どこかその実感が伴っていない様子。そんなある日、彼は講堂の入り口にある戸袋のようなところに、何かの拍子にすっと入り込んでしまう。どう考えても、人間が入れる大きさではないのだが、中には広い空間が広がっていた。二村はそこで、死んだはずの妻(中野麻衣)と息子に出会う。妻はしきりに、あなたの来る場所じゃない、と繰り返すが、彼はこの空間に入れ込み、ついには難民やボランティアの仲間たちも引き入れてしまう。
現代の怪談、あるいは都市伝説とでもいうべき物語。一見、震災からの復興をテーマにした社会性のあるお話のように始まり、あれよあれよという間に妙な方向へスライドしていってしまう面白さがある。案内人のような役割を果たす寺十吾のひょうひょうとした芝居っぷりが(毎度のことながら)見事なものだ。
終幕間際、とても怖いシーンがある。暗転ののち、奇妙な空間に何かが沢山いることが判るその一瞬、全身が総毛立つのを押さえられなかった。いつものアブノーマルな世界観はやや後退気味だが、奇妙にねじまがった世界しか描かない(描けない?)tsumazuki no ishi の真骨頂ともいうべき舞台だったと思う。(110分)

■データ
猫田直の降板(交通事故?)がなんとも残念無念なソワレ/下北沢ザ・スズナリ
10・9〜10・19
作スエヒロケイスケ 演出/寺十吾
出演/寺十吾、釈八子、宇鉄菊三、日暮玩具、松原正隆、杏屋心檬、鈴木雄一郎、岡野正一、松嶋亮太、中野麻衣、蒲公仁(個人企画集団*ガマ発動期)、北島佐和子、中原和宏、ほりすみこ(猫田直は降板)