(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「YAMANOTE ROMEO and JULIET」山の手事情社

どこの劇場というのではなく、山の手事情社の公演会場には、不思議な緊張感がある。いや、開演前の緊張感は、どの劇場、どの劇団にもあるだろうが、その一種独特な静謐さは、彼らならではのものといっていい。まるで、無音の音楽が流れているような。これが劇場空間を制圧するってことなんだろうかと、ひとり勝手に納得しているわたしであるが、その言い方が正しいかどうかはさておき、そんな劇場空間に漂う空気は、これから始る芝居への期待を実に心地よく膨らませてくれる。
今回足を運んだにしすがも創造舎の特設劇場にも、やはりその雰囲気はあった。会場は、廃校となった学校の古い講堂だが、一歩足を踏み入れると、そこは独特の空気が立ちこめる異空間である。中央にしつらえられた舞台と、それを四つの方角から囲む客席。その間には、長かったり、短かったりの花道が敷かれている。さらにきわめつけは、舞台上方を飾るいかにもこの劇団らしい純白の織物だ。そんな中に身をおいて、ワクワクするなって方が難しい。
さて、そこで演じられるのはお馴染みシェイクスピアの「ロミオとジュリエット」なわけだが、現代演劇の最先端の手法を掲げる彼らは、原典を3通りの料理法で舞台に乗せることを試みている。ひとつは、物語全体をあらすじでみせる「抄本ロミオとジュリエット」、次に原作にはないシーンを「妄想ロミオとジュリエット」、そして最後は、主人公ふたりに焦点を絞って彼らの恋愛の誕生から死滅までを時系列に再構成した「印象ロミオとジュリエット」。
聖(印象)と俗(抄本)の極端な対比や、座席を離れ、舞台を取り囲むように設置されたショーケース状の舞台(四つある)を観客に渡り歩かせる趣向(妄想)の面白さなど、盛りだくさんな内容。山の手らしさが色濃く出ているのは印象で、見応えはあったが、ややわたしには重たすぎる。ポップで軽妙、テンポもいい抄本が、正直一番楽しめた。妄想の原作の隙間をニッチに埋める四つのエピソード(ひとめぼれ、舞踏会前夜のロミオ、ヴェローナの街に漂う殺気、ジュリエットの墓)は、どれも一発芸、瞬間芸の面白さがあるが、「ひとめぼれ」の臨場感(?)が一番好きかな。(135分)

■データ
小道具の魚は日持ちしないよなぁ、食べてしまわねば、と心配になった休日ソワレ/にしすがも創造舎 特設劇場
10・10〜10・19
作/ウィリアム・シェイクスピア 構成・演出/安田雅弘
出演/山本芳郎、倉品淳子、浦弘毅、大久保美智子、水寄真弓、川村岳、山口笑美、岩淵吉能、三村聡、斉木和洋、越谷真美、三井穂高、櫻井千恵、小栗永里子、安部みはる、浦浜亜由子、下野雅史、谷口葉子