(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「暴れて嫌になる夜の連続」毛皮族

毛皮族の魅力はレビュー的な面白さに尽きる、というのが最近の彼女らを観ていての率直な印象だ。唯一「天国と地獄」は演劇的な面白さもふんだんに盛り込まれていたが、あれは劇団の独力だけでなく、別の力も加わっていたのだろう。しかし、主宰の江本純子には、演劇における物語性への野望のようなものがあるに違いない。「アラビアンナイト」をモチーフにしたとおぼしき毛皮族の新作からも、そんな彼女の強い意思が窺われるような気がする。
小学生たちによるハイジャックで、物語は幕をあける。理想国家建設の地を広い世界に求めよとのアジテーションで、小6のテロリストたちを率いるのは、リーダー格の霧島一子(江本純子)だ。彼女らは革命霧島派を名乗り、金持ちの馬場(金子清文)と結婚し、新婚旅行へ向かう担任教師六都子(平野由紀)のクルーザーを堂々乗っ取った。
しかし、一子の理想とする共産主義とは、実は恋愛共産主義だった。同じ学校の三津谷姉妹(武田裕子、高田郁恵)や苛められっ子の由美(柿丸美智江)とともに、密かに思いを寄せる進藤君(羽鳥名美子)までもが同じ船に乗っていたことを知った一子は、彼との恋愛成就に向かってまっしぐら。その一方で、洋上での極限状態から、一子は乗り合わせた大人ばかりか仲間にも自己批判を求めて、総括という名の粛清の嵐を巻き起こしていく。愛と革命の箱舟と化したクルーザーは、果たしてどこへ行き着くのか。
レビュー的な見せ場をクライマックスの直前まで封印し、ほぼ全編で物語を語ることに徹した本作だが、その方向性での仕上がりは残念ながら今ひとつ。町田マリーがナレーションにまわり、レギュラーゲストの澤田育子も今はいないという状況も、やはり条件としてはきつくなっていると思う。
その分、いつものことではあるが、江本純子がワンマンの乗りで物語を引っ張っていくのだが、その大車輪ぶりをもってしても、あちこちで緊張感が切れるなど、余裕のなさが舞台上に出てしまっている。アラビアンナイト連合赤軍のエピソードを掛け合わせるというまたとないアイデアも、それを熟成させるに至らないもどかしさが先にたつのは、そのあたりにも原因があると思う。依然に較べると、ひとりひとりの役者たちの役割は次第に増してきているのだが、もう一歩、思い切った切り替えが欲しいところだ。
そういう中で、見事な役者ぶりをみせるのが、アダルト毛皮族こと柿丸美智恵で、江本にかかる重荷をずいぶんと軽減していると思う。どんな場面でも、一度スポットライトが当たれば、彼女なりの独壇の芝居を見せてくれる頼もしさがこの人にはあり。
一方、残念なのはそのふたりに次ぐ存在となってほしい羽鳥名美子だ。この人、いいカラーを持っているのに、なぜかホームの毛皮族では力を発揮しきれない。デス電所やイキウメの客演でみせたミステリアスな魅力なんか、自分の持ち味として十分に通用すると思うんだがなぁ。せっかくの力を活かせない現状は、残念至極。
終幕のレビューの賑々しさは、さすがに客席を楽しませてくれる。しかし、あくまで物語と寄り添う舞台にこだわるならば、毛皮族の苦難はまだまだ続くような気がする。(125分)
■データ
舞台から飛んでくるズタ袋の嵐にびっくりのソワレ/新宿THEATER/TOPS
9・27〜10・5
作・演出/江本純子
出演/江本純子、柿丸美智恵 羽鳥名美子、高野ゆらこ、武田裕子、延増静美、平野由紀、高田郁恵、金子清
ナレーション/町田マリー