(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「シャープさんフラットさん(ホワイトチーム)」NYLON100℃ 32th session 15 years anniversary

主に両バージョンの違いについて、大まかにだがメモしておきたい。結論からいうと、ブラックとホワイトの違いは意外なほど少ない(と思う)。意外とわざわざ言ったのは、事前のアナウンスが両バージョンの違いを結構強調していたように思えたからで、観た人の間ではその違いに関してはやや拍子抜け、という声が実に多く、わたしもそう思った。
ざっくりと違いを見て行くと、まずはキャスティングで、、主人公の母親/売れない芸人の妻役の村岡希美(ホワイト)と犬山イヌコ(ブラック)、芸人の元相方赤坂役の松永玲子(ホワイト)と峯村リエ(ブラック)は、ナイロンの中心を占める女優同士として両バージョン間で火花を激しく散らしている。各人が持ち味を存分に出していて、どちらがいいかは好みの問題でしかないように思える。
一方、客演陣も集客に配慮した人気女優や実力派を揃えて賑やかだが、外部とナイロンが対になっているキャストで比較すると、やはり新谷真弓(ホワイト)やみのすけ(ブラック)らのナイロン生え抜き組が一段上を行っているように思える。ケラの脚本下での彼らは、実に映えることを再認識させられた。
凝った映像演出も、随所に違いがあった。主には、バージョン間の差異に由来するものだと思うが、そういう意味では登場人物の台詞についても同じことが言える。一方にはあってもう一方にはない台詞や、状況は同じでも台詞による表現形態が異なる場面がいくつもあった。
ストーリーでもっとも違いを感じたのは、終幕間際、温室の中で繰り広げられるシーンだ。窃盗を見咎められた芸人の子小骨をめぐるくだりで、その結末の方向性が両バージョンで大きく異なる。そもそも六角慎司(ホワイト)の息子、植木夏十(ブラック)の娘という大きな違いもあるわけだが、このエピソードの差は全体の印象にも深くかかわっている。ブラックのサナトリウムをあとにした塔島と美果の辿るある運命も、このエピソードとのバランスをとったものではないか。
最後に主人公だが、キャラクターや体型で好対照の三宅弘城(ホワイト)と大倉孝ニ(ブラック)だが、観終えて時間を措くと、ふたりの主人公には深く通底するものを感じる。開き直りとも思えるブラックの幕切れ、迷走していくホワイトの幕切れと、明確な違いが打ち出されてはいるものの、実は同じコインの表と裏のようなものかもしれない。
上記のほかにも、間違い探し的にチェックをしていけば、細部の違いはかなりの箇所に及ぶに違いない。しかし、大筋でいえば、同じ作品のダブルキャストに近い。むしろ、ダブルキャストと謳って、バージョン違いに近いね、という印象を与えた方が正解だったような気がする。本質とはまったく違う次元の問題ではあるが。
両バージョンを漫然と観た身には、ずいぶんと物足りなく感じられた15周年というマイルストーン的なナイロンの新作だが、あれこれ考えていると、見逃しがあったような気(というか、あっさりと観てしまった後悔)が心中にもくもくと沸いてくる。スケジュールさえ許せば、せめてどちらかのバージョン(できればブラック)をもう一度観てみたい気がするのだが。(150分)

■データ
やっと本チラシを手にしたソワレ/下北沢本多劇場
9・16〜10・19
作・演出/ケラリーノ・サンドロヴィッチ
出演(ホワイトチーム)/三宅弘城松永玲子村岡希美、廣川三憲、新谷真弓、安澤千草、藤田秀世、吉増裕士、皆戸麻衣、杉山薫、眼鏡太郎、大倉孝二佐藤江梨子清水宏六角慎司河原雅彦