(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「トカゲを釣る-改-」スロウライダー第11回公演

わたくし的な好みから言うと、文句なしにど真ん中の(筈の)スロウライダー。しかしながら、ここのところ、三鷹芸術文化センターの広い空間に呑みこまれてしまった「アダム・スキー Adam:ski」、乗りのきっかけを掴めず最後の最後まで置き去りにされてしまった「手オノをもってあつまれ!」と、空振り、見逃しの三振が続いた。過去の作品を大幅に改訂する(というか別物との触れ込み)今回は、さて。
製薬会社の工場が町の中心産業だった串浦という地方都市。その山奥に、世間から忘れられかけている薬品開発の研究所がある。本社からの連絡も途絶ているのでは、と思えるほど老朽化したその施設では、少数の研究者たちによって、ある研究が静かに進められていた。
トラブル発生の知らせを受け、東京から駆けつけた川端(金子岳憲)は、かつてこの研究所に籍を置いていたが、今では本社でエリートコースに乗っかっている男。5年ぶりに研究所に足を踏み入れた彼は、薬品貯蔵庫に閉じ込められたとんでもない怪物に度肝を抜かれる。それは、赤名(日下部そう)という元同僚が開発した薬品を被験した者のなれの果ての姿だった。
これはいいです。久しぶりに、スロウライダーの、というか山中隆次郎の作り出すワンダラスな世界にどっぷりと引き込まれた感じ。ぶっ飛んだ虚構を舞台に出現させ、きっちり現実との接点も見せてくれる。おかげでフィクションを楽しむ余裕が観客には生まれるわけで、本作はその接点を曖昧に流さなかったところが良かったと思う。
おそらくは、川端という人物の悪夢や妄想であろうサンドイッチでいえば現実のパンに挟まれた具の虚構の部分も、重ね合わせ方が丁寧であるがゆえに、メーターを振り切るような暴走にも俄然リアリティが生まれている。そこがとてつもない怖さを生んでいると思う。虚と実の接点の間をジャンプするタイミングも、無理がない。不幸にして前作(オリジナルの「トカゲを釣る」)を観ていないので、進化の具合を推し量れないところが個人的にはちょっともどかしかった。(120分)

■データ
終わりまで遠藤留奈の出演に気づかなかったマチネ/新宿THEATER/TOPS
9・2〜9・7
作・演出/山中隆次郎
出演/數間優一、芦原健介、日下部そう(ポかリン記憶舎)、金子岳憲(ハイバイ)、町田水城(はえぎわ)、大和広樹、中川智明、遠藤留奈、岡村泰子(きこり文庫)、林灰二Oi-SCALE+灰-Spec(s))、泉陽二