(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「家族の肖像」サンプル03

そもそもが足許の危ういアトリエヘリコプターなので、事前の服装等のご注意メールが主宰者側から送られてきたときも、たかを括っていた。しかし、すごいですね、今回のこの会場の使い方。確かに、スカートはやめておいた方がいいかも。丁寧な誘導に導かれて、ちょっとドキドキ(いや、かなりワクワクか)しながら、工事現場のように組まれた階段と足場を伝って、座席をしつらえられた2階へ。おお、上から見下ろす感じがなんとも新鮮だ。ややアナクロだが、乱歩の「屋根裏の散歩者」の気分?
ちょっとした繋がりで結びついているいくつかの人間関係。店長(古屋隆太)と、バイト君(村上聡一)をはじめとする数名のパートが働くスーパー。その日、万引きで捕まった少女(野津あおい)は、パートで働くかつての担任教師(羽場睦子)と再会する。元教師は自立できない中年でおたくの一人息子(古舘寛治)と親子ふたりで暮らしているが、彼女を頼って訪ねてくる教え子たち(木引優子、中川鳶)もいる。しかし、彼女らには、一方の婚約者(江原大介)をめぐって厄介な三角関係のトラブルが発生する。
教え子のひとりは、語学教師(辻美奈子)からフランス語のレッスンに通っているが、彼女は最近失恋したばかりのようで、妄想にかられて件のスーパーでバイト君に手紙を託したり。スーパーでの仕事以外では、家でゴロゴロするしかない主婦(西田麻耶)は、不動産屋の夫(岡部たかし)と結婚しているが、子どももないまま倦怠期に突入し、セックスレスの日々。そんな管理人をからかうかのように、空き家の下見に訪れるメイド服の謎の女(成田亜佑美)。といった具合。
覗き見するような感覚、散らかり放題の舞台などから、最初に連想したのはポツドールの「夢の城」だ。そういえば、あれも、家族でない家族の物語だった。この「家族の肖像」にも、いくつもの歪な家族が登場するが、それらがパズルのように組み合わさって、さらにおおきな社会の家族関係のような絵柄を浮かび上がらせる。それは一見異様な佇まいに見えるのだが、やや引いて眺めると、自分が今このときに所属している社会そのものであることに(ちょっと不快な思いとともに)気づかされる。松井周の思惑に、またもはめられた思いだ。
わたしは、「地下室」(@アトリエ春風舎・青年団若手自主企画)、「カロリーの消費」(@三鷹芸術文化センター星のホール)に続く三度目のサンプルだが、ごくごく特異な少数を描いているようで、実は多数の姿が映し出されているという、鋭く意地の悪いスタンスが楽しい。時代のキーワードとして「切レル」という言葉がよく使われるが、正しくは「暴走スル」ではないかと思っている。そういう意味で、本作は人々がときに激しく、または静かに暴走する姿を映し出した鏡のような作品だと思った。
やっぱり笑えるスーパー店長の古屋隆太、理解不能の極地だがどことなく共感してしまう変な女を演じる木引優子や辻美奈子が、今回も独特の存在感で、舞台を賑わせてくれている。(110分)

■データ
お手伝いだと思われる石澤彩美さんの会場案内がちょっと嬉しかったソワレ/五反田アトリエヘリコプター
8・22〜8・31
脚本・演出/松井周
出演/辻美奈子#(青年団)、古舘寛治#(青年団)、古屋隆太#(青年団)、羽場睦子、木引優子(青年団)、江原大介、岡部たかし、中川鳶、成田亜佑美、西田麻耶(五反田団、マヤ印)、 野津あおい、村上聡一(中野成樹+フランケンズ)
#…サンプル