(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「愛される覚えはない」劇団宝船第五回公演

高木珠里命のわたしとしては、宝船はぜったいに見逃せない劇団だ。彼女と座長の新井友香とで織り成す「赤裸々でビターな恋愛至上主義」には、観る者(つまりは、わたしだが)をしびれさせる不思議な中毒効果がある。
失恋したばかりのイサオ(山中崇)の耳に飛び込んできたのは、公園に響き渡る空未(高木珠里)の爽やかな口笛だった。その口笛の音色に魅せられたイサオは、友人の満太郎(加藤雅人)を誘って、スミ子(新井友香)がやっている町の口笛教室に足を向ける。そして、偶然にもその教室に通っていた空未と出会い、恋仲になる。
しかし、イサオの人生に珍事が起きる。ずっと振られっぱなしだったのに、空未と付き合い始めた途端に、やはり同じ教室に通う佐奈(山田麻衣子)との距離も急接近。佐奈の積極性もあって、たちまちのうちに三角関係に。困ったイサオは、空未に別れを切り出すが、一途に彼に思いを寄せる彼女はストーカーと化し、彼を悩ませる。
前半、前のボーイフレンドの田淵(ブルースカイ)をあっさりと袖にしておきながら、偶然出会ったイサオへの思いを暴走させていく空未の恋愛ご都合主義は、まさに高木の本領発揮で、胸のすく思いなのだが、しかし、やがて物語が進むにつれて、今回彼女は脇役でしかないことが判ってくる。何かに突き動かされるかのように、執拗にイサムと空未の間に割り込んでいく佐奈。彼女こそが、この物語の主人公なのである。
うまくいかない恋こそ恋、とばかりに、憑かれたようにイサムに迫る佐奈だが、やがて彼女の行動の原理は誰かを愛するためではなく、自分を愛するためのものであることが観客の前に明らかになっていく。そんなものに巻き込まれる男こそいい面の皮なのだが、そんなイサオの痛手が友人江藤の友情で癒されるエンディングがいい。ペシミスティックな幕切れを鮮やかに切り返す幕切れに拍手。(120分)

■データ
役者としてのブルースカイがいい味出してる楽日ソワレ/新宿THEATER/TOPS
8・23〜8・27
作・演出/新井友香
出演/山中崇山田麻衣子、ブルースカイ、中村たかし(宇宙レコード)、加藤雅人(ラブリーヨーヨー)、中島徹、斉藤麻耶、國武綾、新井友香、高木珠里
日替わりゲスト/中山祐一朗阿佐ヶ谷スパイダース