(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「女教師は二度抱かれた」シアターコクーン・オン・レパートリー2008

市川染五郎を主役に仕立て、その相方は大竹しのぶという豪華組み合わせによる松尾スズキの新作。もちろん、脇を固める役者たちは、お馴染み大人計画系のツワモノたち。さらに強力な助っ人、浅野和之。2000年初演の「キレイ」の系譜に列する音楽劇である。
演出家の天久(市川染五郎)は、演劇界の風雲児と謳われてはいるけれど、それはたかだか小劇場界での話。ところが、歌舞伎界の若手ナンバーワンといわれる滝川栗乃介(阿部サダヲ)とのコラボレーションの話がもちあがった。未来のギャラを見込んで、自分たちの劇団ビリーバーズ専用の稽古場を長期契約するなど、ちょっと舞い上がってもいるし、プレッシャーも大きい。
そんなとき、天久は高校時代に所属していた演劇部の顧問の教師山岸涼子大竹しのぶ)と渋谷の町で再会。ほとんど忘れかけていた彼女との過去を否応なく思い出してしまう。教師と生徒の壁を越えた二人は一度関係を持ち、それが公になったせいで山岸は高校をクビになってしまった。しかし、教師を辞めた山岸は、数奇な運命を歩きながら、資産家のパトロン鉱物(浅野和之)との二人三脚で、実は女優としての知られざる人生を歩んでいた。
捩れたストーリーに絡む黒い笑い。さほど大きな冒険はないが、ソツのない形で大きな舞台をまとめた印象だ。芸達者たちに支えられての環境下なので、過大評価はできないにしても、リハビリ期(まだそうだと思う)の松尾スズキとしては、まずまずの仕上がりとみていいと思う。
そもそもの設定からも判るように、市川染五郎の芸を雑談・立ち話の域にまで引き下ろすという下世話な興味があるのだが、飄々とそれを演じきるあたりはさすが染五郎阿部サダヲ平岩紙らのエキセントリックな役どころとのやりとりも、まったく違和感ない。
そんな中で、大竹しのぶだけがやや浮いた印象もあるが、そもそも本作の出発点はテネシー・ウィリアムズの「欲望という名の電車」のブランチのその後だというから、彼女の役柄理解には齟齬がないように思う。エキセントリックな敗残者のダークな半生をきっちりと演じて、不足はない。
個人的に残念だったのは、平岩紙演じる風俗嬢/占い師の杏の主人公への絡みが、途中から安っぽくなってしまうことで、オチとしてはアリだと思うが、何かが起こりそうな期待感をつまらない形で裏切られた気もする。いや、これは平岩ファンの勝手なぼやきかもしれぬが。(休憩20分を含む200分)

■データ
染五郎のお腹のたるみが役作りかどうか友人と議論になったマチネ/渋谷Bunkamuraシアターコクーン
8・4〜8・27
作・演出/松尾スズキ
出演/市川染五郎大竹しのぶ阿部サダヲ市川実和子荒川良々池津祥子皆川猿時村杉蝉之介宍戸美和公平岩紙星野源少路勇介菅原永二猫のホテル)、ノゾエ征爾(はえぎわ)、浅野和之松尾スズキ
演奏/門司肇、伊藤靖浩、伊賀拓朗、田中馨、佐藤えりか、前田卓次、高良久美子、藤井里佳、清水直人