(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「血が出て幸せ」クロムモリブデン

2年前に大阪から東京に拠点を移して4作目となるクロムモリブデン。わたしはファーストコンタクトだった「猿の惑星は地球」で愕然、次の「マトリョーシカ地獄」で呆然、とどうしても物語の展開についていけないところがあったけど、前回の「スチューワーデスデス」でついにシンクロして、実はかなり好きかも、と思うようになった。劇団に変化があったというよりは、こちらの方がそのエキセントリックさにいつの間にか馴らされたような感じで。
深夜のファミレスで、日記をつける女。ヘルメット状の妙な被り物を頭に乗せた彼女は、童話作家志望らしい。ガラガラだった店内も、夜が更けるにつれて混みはじめる。しかし、来る客はなぜか変人ばかり。都市伝説を問わず語る洒落男に、なぜかイライラを募らせる女王様。嘘つきや同じ話を繰り返す女などなど。
ウェイトレスに早退されて、一人ですべてを仕切らねばならない厨房のコックは、お客にまで手が廻らずにパニック状態に。そこに、保健所から来たという怪しい白衣の女が妙な薬品を手にドリンクバーの辺りをうろうろし始めて、店内は果てしない混乱の渦に巻き込まれていく。
全編の三分の四くらいだろうか、混乱とリセットを繰り返す狂騒のシーンが続いて、ぐずぐずの空気が漂い、ああ今回はダメかぁ、という不安に駆られることしきり。しかし、ラストの四分の一で目のさめるような目くるめく展開が待ち受けている。いやぁ、今回も面白いですね。
カオス状態のファミレスから隠されたストーリーを読み取っていく警察署内のシーンが素晴らしい。長い混沌とした展開も、暗く長いトンネルを抜け出たときのような開放感を味合わせるための仕掛けだったのか、と納得させられる。木村美月演じる謎の女をめぐるサイコロジカルな物語が浮かび上がるとともに、いくつもの伏線が浮かび上がってくる展開は実に快感だ。
毎回とても楽しみなハイテンションな役者たちだが、今回客演でそこに加わった伊東沙保が最高。ミニスカートで、クルクルと踊るように動き回り、マシンガンのように喋りまくる姿が、めちゃくちゃキュート。ツワモノどもの中にあって、少しも翳まない個性と魅力にほれぼれさせられました。(90分)

■データ
そろそろクロムの重実百合が観たいぞのソワレ/新宿THEATER/TOPS
7・29〜8・3(東京公演)※大阪公演は終了
作・演出/青木秀樹
キャスト/森下亮、金沢涼恵、板倉チヒロ、奥田ワレタ、久保貫太郎、木村美月、渡邊とかげ、板橋薔薇之介、伊東沙保(ひょっとこ乱舞?)