(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「ローゼ・ベルント」燐光群+グッドフェローズプロデュース

せんがわ劇場調布市の市民劇場で、個人的には自宅から自転車でちょちょいっと出かけられる半径にある劇場のひとつで、柿落としに掛かった永井愛の「時の物置」の記憶もまだ新しい。「ローゼ・ベルント」という戯曲も、ハウプトマンという作者も、不勉強のわたしは今回初めて耳にするけれど、燐光群ならば観てみようというノリで、自転車を漕ぐこと15分あまり。
田舎町の食肉工場で働く若き美女ローゼ。実直な青年のアウグストとの間に縁談の話が進んでいるが、彼女の顔色が冴えないのは、雇い主で妻帯者のフラムとの不倫の関係を断ち切れないでいるからだ。甘言で篭絡するフラムに加え、機械工のシュトレックマンという脅迫者まで現れ、ローゼの苦悩は深まるばかり。そんな折、フラムの食肉工場は、不正な肉偽装が明るみに出てしまい、大変な騒動が持ち上がる。
ゲアハルト・ハウプトマンは、ドイツのノーベル賞作家で、自然主義演劇のオピニオンリーダーだった人のようだが、いかんせん活躍時期は20世紀の前半ということもあって、この「ローゼ・ベルント」も黴臭さは否めない。ドイツの古典をわざわざかけたのは、この劇場の芸術監督ペーター・ゲスナーの出身がドイツだからというのもあるのだろうか。周囲の勝手な価値観に振り回され、とりかえしのつかない傷を負っていく若き女性という主題も、十分に理解できるが、今なぜ?という気がする。
食肉偽装問題は、翻案の過程で取り入れたものだろうか、時機を得たものだが、やや誂え過ぎの感もある。上演時間も長過ぎに思えた。
しかし、燐光群の役者たちの達者なやりとりは、いつ観ても楽しく、足を運んだ甲斐は十分あった。久々(いや、本当に久々。20年ぶりくらい?)に舞台上の姿を観た西山水木も、美しさ、芝居ぶり、ともにしっかりと磨きがかかってました。いい感じに齢を重ねていらっしゃるんですね、西山さん。(145分)

■データ
役者によってはカミカミの台詞がやや気になった二日目ソワレ/調布市せんがわ劇場
6・30〜7・13
作/ゲアハルト・ハウプトマン  上演台本・演出/坂手洋二
出演/占部房子、西山水木、大鷹明良、猪熊恒和、大西孝洋、鴨川てんし、嚴樫佑介、樋尾麻衣子、安仁屋美峰、川中健次郎、中山マリ