(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「鳥瞰図−ちょうかんず−」シリーズ・同時代Vol.1

シリーズ・同時代は、新国立劇場が主催するコラボレーション企画で、注目を集める若手劇作家の書き下ろし作品を、異なった世代の演出家が手がけていくというもの。わたしは、劇作家の顔ぶれに惹かれて、3本全部が観られる割安の通し券を買いました。その一番手に登場したのは、サスペンデッズを率いる早船聡。文学座の松本祐子による演出で。
東京湾を臨む小さな町。かつては漁師町として栄えたようだが、高度成長が進む中、海の汚染や埋め立てのあおりを受けて、町は漁業から撤退、大きく様変わりしてしまった。舞台はその町で細々と釣り船宿を営む小さな店。父親からそれを引き継いだ息子が、母親とともに取り仕切っている。船頭見習いのアルバイトがひとりいて、近所の住人たちも立ち寄る店は、いつも賑やかな溜まり場になっている。
一家には、息子のほかに長女がいたが、母親の再婚をめぐって、その昔家を出てしまっていた。母親には、かつて写真家と暮らしていたが、ふたりの子どもと彼女を置き去りにして、男はある日忽然と姿を消してしまった。その後、彼女は船宿の主と再婚するが、その夫も世を去り、今は息子とのふたり暮らし。そんなある日、突然ひとりの少女が訪ねてくる。ミオという名の少女は、長女の娘だった。長女との関係から、初めて会う孫との接し方に戸惑う母親。そんな折、息子が家業を廃業すると言い出して。
たおやかな空気の中にある、しっかりとした手ごたえのある物語。家族だから判り合える、とはいうが、家族だから分かり合えないこともある。しかし、それもやがて時が解決してくれる。本作は、家族の失った信頼関係とその回復の物語だと思う。
ミオを道案内する元漁師の老人の言葉、「途中までな、遠いから…」。さりげない一言の重さ、深さが物語の終幕で胸にひしひしと迫ってくる。前半は複雑な人間関係がなかなか呑みこめないもどかしさも感じたが、後半は若手とは思えぬ洞察の深さに感服させられた。(125分)

■データ
サスペンデッズの夏公演がますます楽しみになってきた初日ソワレ/初台新国立劇場
6・11〜6・22
作/早船聡(サスペンデッズ)  演出/松本祐子(文学座
出演/渡辺美佐子浅野和之野村佑香、八十田勇一、浅野雅博、弘中麻紀(ラッパ屋)、佐藤銀平演劇集団円)、品川徹