(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「ねこになった漱石」東京ギンガ堂公演

早稲田には文豪夏目漱石の生家があって、その近所には夏目坂と名のつく通りまである。というわけで、東京都新宿区にとって夏目漱石は貴重な文化遺産のひとつということもあって、今回の公演にも大きく肩入れをしているようだ。東京ギンガ堂は、劇作家・演出家の品川能正を中心としたプロデュース形式の演劇企画集団で、昨年も大久保公園内でも特設テント公演を行っている。
新宿早稲田の実家で、夏目漱石胃潰瘍で今まさに往生を遂げようとしていたその時、ひょいとばかりに文豪の魂がその肉体から飛び出した。そこに駆けつけてきたのは、この家で代々飼われてきた猫たち。抜け出した魂の回想を具現化するかのように、猫たちは漱石になりかわって彼の生涯を次々と蘇らせていく。
全体は、おおよそ四つのエピソードからなっている。脚本、演出も堅実なら、役者たちも達者。満員の観客の反応も悪くないというまずは成功の舞台といえそうだが、わたくし的には正直物足りない内容だった。歴代の飼い猫たちが、漱石の生涯を演じるという工夫はあるものの、内容も、見せ方も平凡かつ平板で、退屈した。漱石の伝記はスタンダードだし、「キャッツ」(本作も音楽劇である)というお手本があることなどを考えると、今回の戯曲化はあまりに冒険が足りなかったと思う。最後に、舞台と新宿歌舞伎町が繋がるくだりも、壁を取り払うだけでなく、虚構と現実をシンクロさせる演出を欲張りたいところ。
開場前にお客が列をつくるほどの盛況だが、客席と舞台が意外と遠い感じがした。ゆったりと客席をしつらえたテントの作りは、功罪相半ばという気もする。テント芝居の名にふさわしいもう少し濃密な空間があっても良かったと思う。(115分)
■データ
老若男女の賑わいで後援者の新宿区的には成功と思しきソワレ/歌舞伎町大久保公園内特設テント
6・7〜6・15
作・演出/品川能正
出演/西本裕行、大谷朗、米倉紀之子、溝口舜亮、沙羅にしき、串間保、江口信、品川恵子、山本悠介、黒田瑚蘭、勝野洋輔、千月啓子、西原信行、吉田倫貴、森下庸之、岡田茜あべなぎさ、大谷瑠奈、野口真緒、橋本志乃、野屋美由紀、安藤沙織、牧野亜莉沙、高見澤りな、加藤有彩希、夏目ひみか