(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「失われた時間を求めて」阿佐ヶ谷スパイダース

「もうあとひとり」の出演者が、前売り直前まで伏せられていたけれど、客演者は「胎内」で長塚と縁があった奥菜恵でした。今年のはじめあたりから、客演候補を交えてのワークショプを重ねてきたとおぼしき、阿佐ヶ谷スパイダースの新作。
街灯とベンチのある公園。深夜、そこで出会った男女たちの物語である。いなくなってしまった猫を探す男(長塚)、なぜか彼を手伝おうとする女(奥菜)、妄想にかられたように落ち着きのない男(中山)、そして本を読む哲学者風情の男(伊達)。行き交い、微妙に噛み合わない会話をかわす彼ら。そして、夜は深々と更けていく。
作・演出は長塚名義になっているが、おそらくはエチュードのようにワークショップを通じて、出演者全員で肉付けをしていった舞台だろう。劇中にチラリとオールビイの「動物園物語」が顔をのぞかせる。だからというわけでもないのだろうが、不条理色がとても濃く、ついつい物語を追ってしまう観客(つまりわたし)としては、たちまち迷宮へと突き落とされてしまう。
そんな戸惑いが先に立ってしまうものの、しかし役者たちはやけに活き活きしており、ワークショップ重視の手法の成果もうかがわせる。中でも、客演の奥菜恵の溌剌とした姿、科白が印象的で、襲い掛かる睡魔からわたしはずいぶんと助けてもらいました。
正直、お客の前で演じるには、作品的に熟成が足りないとは思うが、阿佐ヶ谷スパイダースの次の一歩を模索する上での試みだと考えれば十分に理解できる。成功をおさめた地点に安易にとどまろうとしない意欲を受け止めたい。(90分)※27日まで。

■データ
今秋からの長塚の渡英に期待も高まる初日ソワレ/森下ベニサン・ピット
5・8〜5・27
作・演出/長塚圭史
出演/中山祐一朗伊達暁長塚圭史奥菜恵