(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「夜光ホテル」モダンスイマーズ

来る新国立の「シリーズ・同時代Vol.3」にも名前を連ね、劇作家としての評価はまさにうなぎのぼりの蓬莱竜太。彼が作・演出を担当するモダンスイマーズが、狭い劇場でほぼ1ヶ月にわたるロングラン上演する新作は、萩原聖人というスターを客演に招いての公演。というわけで、いつもとは違った客層がつめかけている下北沢OFFOFFシアターである。
函館のちょっとうらぶれたホテルの一室。こんなホテルでも、折からの祭りのせいで部屋は満室状態だ。東京からやってきた三人の若い男たちも、フロントの目を盗んでシングルの部屋に泊まっている。ゲームに熱中するハルフミ(古山憲太郎)、お喋りがとまらないナー(津村知与志)、そして文庫本に目をおとすリーダー格のケン(萩原聖人)。そこに、昔の仲間のツッキー(小椋毅)が訪ねてくる。どうやら、彼らが顔を合わせるのは、十数年ぶりのことのようだ。
四人は幼馴染みで、ワル仲間だった。しかし、ある時ツッキーは足を洗うためにこっそり姿を消した。現在は妻子もいて、青森で林檎園を経営している。ケンたち三人は、先輩格のヤクザの命令に従い、いかがわしい用向きのために函館までやってきた。計画に巻き込もうとする三人に対し、必死に拒絶するツッキー。しかし、三人にはツッキーをどうしても東京へ連れ戻さねばならない理由があった。
居るだけでさすがの存在感を漂わせる萩原聖人も去ることながら、モダンスイマーズの役者たちがいい味を出して、男五人の密室のドラマを繰り広げる。高いテンションでドラマをひっぱる津村知与支や、寡黙さゆえの存在感が印象深い古山憲太郎など、いい役者が揃ってますね、モダンスイマーズ。
一方、物語の方も、終盤まで伏せられたツッキーを東京へ連れ帰らねばならない理由というのが、インパクトがあって有効。それが明かされる瞬間には、そこまでの登場人物への感情移入をひっくりかえすショックがあり、観ていて心を揺さぶられる。
しかし、いいのはそこまで。終幕近く、ケンが饒舌になった途端に、物語は失速してしまう。彼が本を読んでいる理由というのが、ちょっと信じられないくらいに安易だし、胸に秘めたる現状打開策も甘いとしかいいようがない。考えることは尊い。しかし、それに見合った重みや説得力がケンの科白からはほとんど感じられなかった。最後の最後に露わになった作者のアナクロニズムで、お話が白けてしまったように思えるのは、なんとも残念だ。(90分)※6月1日まで。

■データ
舞台装置に横の見切れをもう少し改善する工夫がほしかったマチネ/下北沢OFFOFFシアター
5・3〜6・1
作・演出/蓬莱竜太
出演/萩原聖人古山憲太郎、津村知与支、小椋 毅、西條義将