(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「飛ぶ痛み」キリンバズウカ

大阪府立大学に在学中の登米裕一(作・演出)が、2002年に大阪で旗揚げ。観客動員を伸ばしながら、東京公演が予定されるまでの成功を収めるが、2005年にあえなく解散。主宰の登米は単独上京し、しばらく雌伏の期間を過ごしていたようだが、今年になってプロデュース・ユニットとしてようやく復活、というのがキリンバズウカのこれまでのあらすじ。
瀬戸内海に浮かぶ離島の医療施設。出入りを許されているのは、食料や日常品の運搬を請け負う船長がたったひとり。外部からシャッタアウトされたこの施設には、余命いくばくもない病人が3人収容されている。日々詳細なデータを取られる彼らは、入院患者というよりはモニターに近い。それもその筈、彼らはとある実験のために、被験者としてこの島にやってきたのだった。
軒並み前売りがソールドアウトで、急遽追加公演が決まるという人気ぶり。ちょっとした小劇場オールスターという出演者の顔ぶれの豪華さもあるのだろうが、関西での実績など口コミなどで広がった前評判の高さが相当のものだったに違いない。なるほど、作りこまれた装置といい、テンポのいい展開といい、一見して非常にクオリティの高い舞台づくりがなされていることが判る。
それに加えて、役者たちの個人技のレベルが高いこともあって、観客は忽ちのうちに物語に引き込まれていく。というわけで、しっかりとした作りで、大いに楽しめる出来映えだったのだが、以下はそれを認めたうえでの苦言。プロダクションの強力さに比して、そもそものアイデアがそのまま着想の段階に留まっているのが物足りない。どこも具合の悪いところはないといい張りながら、苦痛に悶える見舞い客。一方、とても病気とは思えない、やけに明るく、能天気な患者たち。その秘密が、やがて明らかにされるのだが、そこを起点にした膨らみや展開が皆無に等しいのだ。これでは、拍子抜けである。
さらに、最後には登場人物のひとりがある成長を遂げるというエンディングが用意されているのだが、それがまた貧弱で、カタルシスに欠けること夥しい。さりげなく印象的な冒頭のシーンも、その後の場面に微妙に繋がらないのがなんとも惜しい。こういった弱点は、舞台、演出などのクオリティの高さゆえに目立ってしまうのだと思うが、繰り返しになるが全体のレベルは高い。そのあたりを克服した次の段階をぜひ観てみたい有望なカンパニーであることは強調しておきたい。(100分)

■データ
初めてみるこゆび侍の佐藤みゆきをマークしたマチネ/王子小劇場
4・25〜4・29
脚本・演出/登米裕一
出演/久保貫太郎(クロムモリブデン)、七味まゆ味(柿喰う客)、田中沙織(柿喰う客)、黒岩三佳(あひるなんちゃら)、本井博之(コマツ企画)、齋藤陽介(ひょっとこ乱舞)、折原アキラ、佐藤みゆき(こゆび侍)、緒方晋(TheStoneAge)、板倉チヒロ(クロムモリブデン)