(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「ハリジャン」InnocentSphere

InnocentSphereを観るのは2度目で、前回は2年前に今回と同じシアタートラムでの「ミライキ」だった。今回は、歌舞伎の世界から、四代目尾上松緑を客演に招いての新作公演である。
とある病院で起きた世間を揺るがす大事件。その重要参考人たる渋谷エビス(尾上松録)は、世間に唾を吐くような言動や行動で、悪の権化のような男だった。エビスをよく知る障害者(狩野和馬)は、テレビのインタビューに答えて、彼とは福祉作業所で知り合った、と過去を振り返る。エビスはロクに仕事もしないばかりか、女性職員をレイプしてしまう悪辣さで、作業所を追い出された、という。
次に教会があるキリスト教系の病院でエビスは職を得て、働くようになる。同じ仕事に就いている障害者たちは、エビスの徹底して世間に背を向ける態度にリスペクトを捧げ、健常者たちに対して小さな反抗を開始する。折りしも、その病院では、患者が謎の死を遂げる事件が頻発しており、嫌疑の目は彼らに向けられる。
ハリジャンとは、ヒンドゥー語で「神の子」の意があり、かのガンジーカースト制度の最下層に位置づけられた不浄の民をそう呼ぶように提唱したという。物語では、障害者が健常者から受けるいわれなき差別が俎上に上げられている。
素晴らしいのは、十字架の形に通路で分割された舞台装置と、後方に聳える歪な形の樹木の美術である。テーマを象徴する造形の素晴らしさは、前回の「ミライキ」でも感じられたことで、InnocentSphereの強力な武器といえそうだ。
ただし、やはり前回も感じたことだが、芝居全体に生硬な堅苦しさがあって、どうも観客として物語にすんなり溶け込めないもどかしさがある。生真面目さは決して悪いものではないと思うのだが、一所懸命が先にたち、余裕というものが感じられず、観ていて息苦しさを今回も感じた。
さらに、エビスを演じる客演の尾上松緑は、非常に濃い口のキャラクターをベタに演じているために、良く言えば端正、厳しく言えば線の細い劇団員たちの中で、違和感を醸している。いや、主人公なので、注目を集めること自体は、むろん望ましいことではあるのだが、すっかり浮いてしまっている印象が強い。
前半と後半が乖離しているようにうつるのも、弱点だと思った。エピソードを順々に語るだけではなく、一体感ある物語の流れに乗せる工夫があってこそ、観客へ訴える力は強いものになるのではないか。(110分)

■データ
松緑ファンとおぼしき女性軍に囲まれた感のマチネ/三軒茶屋シアタートラム
4・19〜4・27
作・演出/西森英行
出演/尾上松緑、狩野和馬、倉方規安、坂根泰士、日高勝郎、黒川深雪、足立由夏、三浦知之、間野健介、八敷勝、こうのゆか、中田真弘、大谷幸広、窪田道聡(FIP/世界名作小劇場)、筒井則行(ゴリぱんかにー)、名越健一(AUN)、川本裕之(KAKUTA)、横道毅(花組芝居)、伊藤優、小澤惠(劇がく杜の会)