(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「おいでおいでぷす」青年団若手自主企画 vol.37

主宰するハイバイのほかに、昨年から青年団演出部にも所属している岩井秀人によるギリシャ悲劇「オイディプス」の現代口語バージョン。なんと今回のコンセプトは、松井周から聞きかじった「オイディプス」のあらすじを岩井が勝手に解釈して上演する、というもので、アフタートークによると、実際に岩井自身は原典をきちんと読んでいないという、いやはやなんとも大胆かつ潔い企画である。
山奥にキャンプにやってきた若い男女たち。リーダー格の恒松(松井周)が、あれこれ指示を出したりしているが、みんな結構いい加減で、思い思いに楽しくやっている。しかし、そんな素人集団に、やがていくつかの課題が浮上。一行は、テレビでお馴染みのキャンプの名人(坂口辰平)に相談するが、名人は「穢れを取り除け」という妙なアドバイスを与える。つまり、メンバーの中に前任のリーダーを追い落とした者がいるので、そいつを見つけ出し、グループから追い出せ、というのだ。
恒松は名人の言葉など眉唾だと思っているが、なぜか他のメンバーたちは名人に信頼を寄せている様子。恒松の立場は、だんだん危ういものになっていく。そして、かつて上州屋で釣り道具を見ていた恒松が、ルアーの先で顔を傷つけてしまった相手が前のリーダーだったことが判り、穢れ=恒松ということで、すっかり悪役にされてしまうことに。
一度は捨てられたオイディプスが王位に就くまでのあらすじの字幕が、冒頭でイントロとして映されるのだが、ゴダイゴの「ガンダーラ」がバックに流れて、これだけで本編への期待がいい感じに膨らんでいく。紀元前5世紀に書かれた物語は、国をキャンプに、王をリーダーに、予言者を名人に置き換えられ、岩井秀人調とでもいうべき、脱力系の物語として再構築されていく。
食べ物のことで揉めたり、ルールを守らない者がいたりと、現代人にとって既視感のある物語が繰り広げられていく。上州屋の顛末や、恋人が実は信じられないくらい年増であることがわかったりと、笑いを交えためくるめく展開の中から、原典の「オイディプス」の物語が、観客にしっかりとフィードバックされていく。
現代口語への置き換えは、すなわち古典を現在の価値観による物語の再評価ということになると思うが、そのあたりはいったん幕を降ろしたあとに、遡って演じられるリーダーの独善や民衆の愚かさなどを浮き彫りにするエンディングの部分でしっかりと表現されている。本作を観ると、古典の現代口語への置き換えという試みは、とても興味深いものに思える。作る側の苦労は察して余りあるが、シリーズ企画に発展することを期待したいところだ。(85分)※30日まで。

■データ
舞台上にそれぞれの控え室(6つ)をしつらえた工夫が愉快な初日ソワレ/小竹向原アトリエ春風舎
4・22〜4・30
作・演出/岩井秀人(ハイバイ)
出演/松井周(サンプル)、秋山建一、端田新菜、木崎友紀子、大久保亜美、金子岳憲(ハイバイ)、坂口辰平(ハイバイ)