(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

[本]二度はゆけぬ町の地図/西村賢太(短評)

「どうで死ぬ身の一踊り」(講談社)、「暗渠の宿」(新潮社)に続く、私小説作家西村賢太の三冊目。私小説なんていまどき流行らんだろう、と思ってしまうが、考えてみれば主人公の年齢などを考えると一人称の青春小説でもあるわけだ。ただし、それが帯の謳い文句にある「エンタメ」だとはさすがに思わないが。
この作家の気になるところは、主人公の生き方の徹底した無軌道ぶりで、個人的には平成日本のジム・トンプソンと呼びたい。ジコチューな自身を見つめるノワールな翳りは作者自身も無自覚かもしれないが、それが他者と接触する際に生じる激しい摩擦が、歪な主人公像を浮かび上がらせる。
収録作四作のうち、二作は同じ主人公が登場。一作も、おそらくは同じだろう。似た作家をあげるなら、わたしは「バッド・チューニング」の飯野文彦だと思う。切れ味の鈍い刃物で、時代を切り裂こうともがく作者の姿が、目の前にちらつくという意味で。

二度はゆけぬ町の地図

二度はゆけぬ町の地図