(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「humming2」ポかリン記憶舎 cafe公演

小田急線の祖師谷大蔵駅を降りて、右手にウルトラマン商店街を5分ほど行ったところにあるビル屋上のカフェ。すぐ先に見える公園では、桜も咲き始めているまたとない季節に行われた、ポかリン記憶舎のカフェ公演第二弾である。
マスター(岩崎正寛)とウェイトレス(奥田ワレタ)のふたりで切り盛りをしている小さなカフェ。週末は、イベントなども催しているようだが、その日の午後は常連客とおぼしき青年(日下部そう)がたったひとり。そこに、新しい客がやってくる。彼は、取材のためによってきた雑誌社の男(浦壁詔一)だった。この店を気に入ったのか、ひとり興奮し、声高にマスターに話しかけるが、マスターもウェイトレスも、独善的にうつるこの男を気に入ることができない。
男がちょっと不機嫌に出て行き、入れ替わりに今度は女性がやってきた。彼は、どうやらマスターの別れた恋人のようだ。今は、互いを思いやることのできる友人同士になっている様子で、先の取材も、彼女が気を利かせてのものだった。しかし、話をするうちに、昔の記憶が甦ったのか、突然彼女は店を出ていってしまう。
静謐な演劇。静かであるがゆえに、押しつけがましく、傍若無人なマスコミ取材の嫌らしさや、かつての恋人が一瞬にして感情を高ぶらせる場面が、際立った印象を与える。物語というよりも、登場人物の心に広がっていく波紋や淡い心象風景を浮かび上がらせる試みと見受けた。
終盤、ようやく台詞を口にする日下部のすっとぼけた雰囲気や、客入れなどの裏方の仕事をこなす明神らが、実にほのぼのとした心地よさを生み出している。ぎりぎりで雨は上がったが、背景に日の入り前後の美しい夕方の空が見えなかったのは、個人的にお目当てだっただけに、ちょっと残念でした。(60分)
■データ
わが街にあれば行きつけになること間違いなしのカフェを会場にした唯一のマチネ/祖師谷大蔵cafe MURIWUI
3・18〜3・24
作・演出/明神慈
出演/中島美紀、日下部そう、浦壁詔一、奥田ワレタ(クロムモリブデン)、岩崎正寛(演劇集団円