(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「なるべく派手な服を着る」MONO第35回公演

詐欺師映画の佳作「約30の嘘」が、そもそもはこの劇団のレパートリーだということを最近まで知らなかったわたし、ああ恥ずかし。(映画でも、土田英生が脚本を担当)80年代末の劇団結成からMONOを引っぱる作・演出の土田は、近年TVドラマでも人気を博している。MONOとしては、前作から約一年ぶりの新作公演である。
男ばかりの6人兄弟。実家には、寝たきりの父親と長男が暮らしているが、久方ぶりに6人の兄弟が集合。どうやら、父親の余命が幾許もないようで、そのために招集がかかったとおぼしい。子どもの頃を懐かしみ、トランプに興じたり、家の中をふざけて練り歩いたり。母親の得意だった鍋料理をつつきながら呑んで大騒ぎする兄弟たち。
しかし、臨終間際の枕元で父親は、とんでもない秘密を子どもたちに明かす。兄弟たちは驚愕のあまり、それまでの仲のよさが嘘だったかのように、バラバラに。おまけに、優しき聖女の如き亡き母親のイメージも、ガラガラと音をたてて壊れてしまい、一家は崩壊の危機に晒される。
タイトルの意味が判るのは、終盤。一家の五男(尾方宣久)は、なぜか子どもの頃から影が薄く、兄弟の間でも名前や存在を忘れられてしまう。そんなコンプレックスが染み付いてしまっている彼が、ぽつりとつぶやく台詞からとられている。
彼のほかにも、殺人事件の容疑者にされたことがある長男(奥村泰彦)や、長男でないことが自分の弱みだと思っている次男(水沼健)など、兄弟全員がそれぞれなんらかの弱点を抱えている。作者も語っているように、さまざまな呪縛から抜け出せなくなっている男たちの姿が滑稽に描かれていく。
達者な役者たちが、癖のある役柄を演じる面白さは勿論のこと、わたしが面白いと思ったのは、物語を裏返して眺めたときに見えてくる、血の絆をめぐる醒めた価値観だ。家族の関係は、血の濃さよりも思いの深さで成り立っていることが明らかになる後半からは、血の絆なんてナンボのもの、というシニカルに笑いが浮かび上がってくるようだ。
一家の家訓と称して、海外渡航はダメとか、結婚はダメとか、とにかくむちゃくちゃな家族の約束事が出てきて、いくらなんでもありえないだろう、と思いきや、後半の展開の重要な伏線だったことがのちに判り、はたと膝を打った。また、家族関係の解体で幕となってもちっとも不思議ではない物語を、その再生まできっちりと描くあたりは、清々しくて好印象。作者の優しさだろうか。
最後の最後で五男がコンプレックスを克服することを暗示する幕切れは、いささか甘ったるいが、ハートウォーミングな心地よさがある。(110分)※16日まで。

■データ
ヨーロッパ企画本多の客演がぴったりハマってた平日マチネ/下北沢ザ・スズナリ
3・6〜3・16(東京公演、すでに大阪公演は終了)
作・演出/土田英生
出演/水沼健、奥村泰彦、尾方宣久、金替康博、土田英生、亀井妙子(兵庫県立ピッコロ劇団)、本多力(ヨーロッパ企画)、松田暢子(ヨーロッパ企画)、山本麻貴(WANDERING PARTY)