(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「檸檬/蜜柑」弘前劇場公演2008

弘前劇場は、青森市に拠点を置く地域劇団。旗揚げから30年という堂々たるキャリアも立派だが、去年の6月シアターグリーンで観た「冬の入り口」のあまりの面白さに目をみはった。というわけで、わたしにとって東京で公演があれば見逃せない劇団のひとつだ。
北国の城下町、そこで八百屋の二階に店を構える古書店の「檸檬」。BGMにジャズが流れる店内はバーのコーナーもあるし、フロアーの真ん中には撞球台もあって、プールバーのおもむきもある店構えだ。そこに、近所の大学関係者やお馴染みの常連客たちが次々やってきては、球をついたり、アルコールを呑んだり、お喋りや議論に花を咲かせたり。
雇われマスターの野口だが、今日の彼は誰からか呼び出しの電話がかかってきたりして、どこか落ち着かない。不在中にひとりの初老の紳士が訪ねてくるが、一旦戻ってきたものの娘に紳士への伝言を託し、再び慌しく外出する野口。やがて野口親子をめぐる封印された過去が明らかになっていく。
期待を裏切らない面白さ。登場人物たちのさりげなくも明確な存在感、豊富な台詞のやりとり、そしてその会話が深まっていくのが楽しい。新聞記者の天童やその友人武田が交わす気のおけない友人同士のやりとり、さらには大学で哲学を教える富やその教え子らが加わって、ときに津軽弁が紛れ込む饒舌な会話劇の面白さが最高だ。
その弾む会話の面白さとともに、白血病で死んだことになっている野口の妻であり、娘の母親の秘密がつまびらかになるくだりは、時間の壁を一瞬にして越える鮮やかさがある。ただし、舞台上で常に誰かがビリヤードに興じているというアイデアは、ユニークだし舞台装置として効果をあげているとは思うものの、いかんせん音が煩い。集中力を削がれたり、台詞の聴き取りに支障のある場面もあった。
その他、気になった点をいくつか。冒頭のモノローグは思わせぶりなだけで不要ではないか。アル中だった人物が誤って酒を口にしてしまう場面があるが、アクシデントとしては深刻な筈なのに、本人やまわりの反応がやや軽い?小笠原真理子演じる武田の職業は、当日パンフの上では伏せておくべきではないか。
それにしても、現代口語を駆使した見ごたえ十分の舞台。いつか青森に足を運んで、地元での公演もぜひ覗いてみたいものだ。(100分)

■データ
年一度だけでは物足りないと思うことしきりの楽日マチネ/下北沢ザ・スズナリ
2・29〜3・2
作・演出/長谷川孝治
出演/福士賢治、長谷川等、永井浩仁、山田百次、濱野有希、斉藤蘭、青海衣央里、工藤早希子、林久志、平間宏忠、乗田夏子、小笠原真理子