(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「眠りのともだち」イキウメ

脚本家としてあちこちでその名を見かける前川知大だが、イキウメとしての新作は「狂想のユニオン」(吉祥寺シアター)以来となるほぼ一年ぶり。小劇場系では去年の「ワンマン・ショー」(シアタートラム)での強烈な存在感がまだ記憶に新しい小島聖をヒロイン役に迎えて。
別居しながら妻(小島聖)の部屋に居候を決め込む夫(浜田信也)。ある晩ふたりは、自分たちの会話にデジャブ感を覚える。互いに同じ夢をみたのか、二人はその中での会話をそっくりそのまま交わしていたのだ。なぜか目の前に見知らぬ男たち(盛隆二、緒方健児)が現れるが、彼女のひとことで彼らはあっさりと退場。やがて妻は今いるのが自分の夢の中であることを自覚する。
しかしその晩から、妻は眠ったままとなってしまう。医者(宇井タカシ)は根気よく待つしかないという。一方、夢の中の妻は、ともだちを名乗る国枝(日下部そう)と塚田(森下創)という奇妙な二人組と出会う。彼らによれば、眠りは段階的にいくつかの層に分かれていて、下のレイヤーに落ちるほど目覚めが難しくなるという。行方不明だった友人の真弓(岩本幸子)が男たちに襲われる誰かの夢を目撃した妻は目覚めようとするが、さらに下のレイヤーへと転落してしまう。国枝と塚田の助力で、果たして妻は目覚めることが出来るのか?
いかにもイキウメらしいセンス・オブ・ワンダー溢れる新作。眠りの深さには階層(レイヤー)があって、それぞれのレイヤーでは微妙に見る夢が異なるという眠りと夢の不思議な相関関係。さらに、夢は眠った場所が見せるものであり、時に同じ場所で別々の人間が見た夢は、時間を前後して互いにシンクロし、見るものを幻惑するなど、作者の想像力には、今回も奔放な面白さがある。
ただ、発想が素晴らしく明快な「散歩する侵略者」や、むしろ混沌としたところに得体の知れない面白さがあった「狂想のユニオン」に較べると、やや中途半端な感は否めない。いや、テーマもその料理の仕方もそれなりに秀逸なのだが、全体に消化しきれていない印象もある。シンクロする二つの夢の関係がいかにも作り物という感じだし、クライマックスの覚醒のシーンも、いまひとつ工夫にかけて物足りない。いや、これは、レベルの高いイキウメゆえに感じる贅沢な不満ではあるのだけれど。
小島聖は期待通りだが、眠りのともだちを演じる日下部そうと森下創のコンビがなんともいい味を出していて、このキャラクターはどこか別の機会に活かせそうな気もする。もちろん、この物語をいったん解体し、再構築するのも面白い試みになるような気がする。今のイキウメ、そして前川知大には、それを望んでも酷という気がまったくしない。(100分)※3月9日まで。

■データ
当日パンフの上等な出来映えにびっくりした初日ソワレ/赤坂レッドシアター
2・27〜3・9
作・演出/前川知大
出演/浜田信也、盛隆二、森下創、緒方健児、宇井タカシ、岩本幸子、日下部そう(ポかリン記憶舎)、奥瀬繁、小島聖