(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「時の物置」せんがわ劇場アンサンブル 0番目企画

お隣の三鷹市が誇る芸術文化センターのホールに負けじ、と思ったかはどうか判らないけど、調布市京王線沿線の仙川にオープンしたせんがわ劇場。ケラも敬愛するというペーター・ゲスナーが、永井愛のレパートリーを演出する新劇場の実質的な杮落とし公演。
50年代から始まった高度成長の波が、まさに時代をおおっていた1961年。東京は練馬、士族のなれの果て新庄家は、貧乏ながら親子三代が元気に暮らしている。寝たきりの夫を介護しながら家を切り盛りしている延ぶ、作家への夢を捨てきれない息子の光洋、孫の秀星は学生、そしてその妹日美は、家出した母に憧れ、自分も女優になりたいと夢見ている。
そんな折、世話焼きの延ぶは、わけありの女性ツル子を下宿人として置くことに。無口な彼女は、謎だらけだったが、徐々に心を開き、周囲と馴染んでいった。嫁に行った長女の詩子がある下心から譲ったテレビが彼女の部屋におかれ、物珍しさに近所の主婦たちが入り浸ることに。そんなのほほんとした日常の中にも、新庄家の面々はそれぞれに自分の人生を揺すぶられるような出来事に見舞われて。
永井愛は九十年代に、昭和の戦後という時代を振り返って「戦後生活史三部作」というシリーズを発表しており、「時の物置」はそのパート1にあたるようだ。生活、風俗史のディテールにこだわった作りは、手のかかっている舞台装置を含め、舞台上に時代の空気を生き生きと甦らせている。
演出は、好みからいうとやや濃い口の味付けだが、経験の浅い役者たちを含むアンサンブルに高いテンションを与え、暖かな舞台を作り上げている。新劇場に関していえば、舞台の幅や奥行き、観客席など、小劇場系にはうってつけの仕様も素晴らしい。お隣の三鷹市を好敵手にして、都心から観客を呼び寄せる魅力ある芝居を次々にかけてもらいたいものだ。(165分)※24日まで。27日より第二弾の「モバイル」の公演を予定。

■データ
休憩時間のワインサービスやカラーのパンフ(無料)などサービス満点のソワレ/調布市せんがわ劇場
2・16〜2・24
作/永井愛  演出/ペーター・ゲスナー
キャスト/新井純、真那胡敬二、岡崎慎吾、佐々木美奈、広瀬喜美子、柏木俊彦、大本淳、櫻井拓見、南波早、里村仁士、岡部雅彦、原田晴美、眞田惠津子、中村真季子、田村まどか、岡崎展久