(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「ウラノス」青山円劇カウンシル#1〜RISE!〜

青山円形劇場ネルケプランニングによる新しい演劇プロデュースのシリーズ「青山円劇カウンシル」の第一回。ご多分に漏れず、イキウメの前川知大とグリングの青木豪の名にひかれて。前川は、昨年末に「抜け穴の会議室」があって、2月下旬からはイキウメの新作が待機中というラッシュのさ中のこれまた新作である。
東京からちょっと離れた田舎町。久しぶりの実家で、仲良しの妹の香依(川野ゆきえ)と再会した姉の朝子(酒井美紀)。しかし、彼女の帰郷には、実は何かわけがありそうで。そんな彼女を暖かく迎える役場に勤める友人の曽我(中野英樹)や老人ホームで働く青年金田(津村知与志)ら。
朝子は実家の庭にあいた大きな穴を見て驚く。妹の許可を得てボーリング調査をしたという学者風の男古橋(今井朋彦)は、地質調査が目的で、できれば家ごと敷地を買い上げ、調査を進めたいという。実はこの穴、ワームホールとも呼ぶべき不思議なもので、そこに入ったものはすべて消失してしまうという秘密があった。
古橋は、この穴が宇宙のどこかに繋がっていると推理していて、この穴の活用に関して邪なアイデアを抱いている。古橋から買収の件を任された弁護士の八雲(土屋裕一)は、古文書を調べ、この土地にまつわる祟りを知り、彼らの前に立ちふさがった曽我を穴に突き落としてしまう。さらに、朝子に莫大な借金があることを調べあげ、無理やり売却を了解させるが。
あらすじがやや長くなったが、ややダークだがいかにも前川らしいファンタスティックなお話。ただし、割とよくある話で(星新一など)、SFやホラーなどの小説を読みなれた読者には、ほとんどフィクションとしての衝撃はないだろう。しかし、過去の作品からも明らかなように、前川の作品の場合、先例の有無はさほど重要ではない。ひとつのアイデアを足がかりに、もうひとつ先の異世界に踏み込むところに、この作家の持ち味があるからだ。
だが、残念ながら本作にそれはない。物語よりも登場人物が優先されていること、後半放射性物質の廃棄物をめぐる社会性へと傾くことなどがその理由だと思うが、それはすなわち前川×青木という組み合わせの弊害だろう。フィクション優先の前川と人間を描く青木というふたりの肌合いの違いは実は決定的で、これほどチームとして不適な組み合わせはないのではないか。
不思議な力を持つ金田青年を好演する津村や、ラストに舞台中央で繰り広げられる衝撃など、断片的には面白い材料を揃えながら、面白いがどこかで読んだような話を反芻するような物足りなさを覚えるのは、人気者を揃えて客さえ呼べれば事足れりとするプロデュースする側のスタンスにも問題があるように思える。(100分)※17日まで。

■データ
公演も後半に入ったせいか役者間のアンサンブルはいい感じだったソワレ/青山円形劇場
2・6〜2・17
脚本/前川知大(イキウメ)演出/青木 豪(グリング)
出演/酒井美紀土屋裕一(*pnish*)、川村ゆきえ、中野英樹(グリング)、津村知与支(モダンスイマーズ)、岩本幸子(イキウメ)、今井朋彦文学座)、大河内浩