(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「2008改訂版 百千万」劇団鹿殺し

上京してから前回公演(殺ROCK ME!〜サロメ〜@スペースゼロ)までの足取りは、まさに瞬く間といった感じの劇団鹿殺し。駅前劇場初登場となる今回の演目は、2008改訂版と銘打っての「百千万(ももちま)」で、2004年に大阪、その翌年に王子小劇場でも上演されたものの再演。
福井県美浜町原発事故が起きた晩、この世に生を受けた少年のエンゲキ。脳そのものといった肥大した頭と、体に巻きついた腸。生まれついての奇形の彼を残して母親は失踪、仕方なく父親は彼を床下に閉じ込めてこっそりと育てた。
しかし、いくら父親が叱っても、外の世界への関心が芽生えたエンゲキを幽閉し続けることはできない。ある日、父親の制止を押し切って、身動きひとつするにも不自由な体を引きずり、エンゲキは出奔。母親そして自分探しの旅に出るが。
裸の肉体が踊り、唾と汗となんだか判らない水分が飛び散るやたらやんちゃで、男臭い舞台だ。オレノグラフィティと丸尾丸一郎を全面サポートする花組芝居の谷山知宏が、抜群のボディと動きで大いに舞台を盛り上げている。また動物電気の政岡泰志も、違う意味で大活躍。客演の二人が、素晴らしい働きといっていいだろう。
そんな賑やかな舞台だが、しかし物語のつくりは結構大味。前回公演の「殺ROCK ME!〜サロメ〜」もそうだったが、わたしが観た鹿殺しは、別働隊のオルタナティブは素晴らしいのに、本公演ではなぜか肩透かしを食らう。こちらの期待値が高すぎるのかもしれないし、広げた風呂敷が大きすぎるのかもしれない。それとも、本公演の力みなのか。とにかく、物語が散漫。
今回も、エンゲキ少年の旅の先々で起きることが、賑やかなわりには物語としてのカタルシスを欠くものなので、主人公への感情移入がほとんどできないまま物語が進んで行ってしまう。観客としては、舞台上のお祭り騒ぎをただ呆然と眺めているしかないのだ。
初演を観ていないが、今回、菜月チョビは無邪気な少年を好演している。しかし、エンゲキが旅路の果てに母親と抱き合う場面でも、なぜか心が動かない。つまらぬ客いじりなどではなく、物語に引き込む何かで、舞台と客席の距離を縮めてもらいたいものだと思う。オルタナティブで出来て、本公演でそれが出来ないことはない筈だ。(120分)※21日まで。

■データ
最前列で凝った映像をよく見られなかったのが残念なソワレ/下北沢駅前劇場
1・11〜1・21
作/丸尾丸一郎 演出/菜月チョビ
出演/オレノグラフィティ、丸尾丸一郎、菜月チョビ、岸本啓孝、橘義一、丸山知佳 、谷山知宏(花組芝居)、菅野家獏、坂本けこ美、佐藤輝一、しのだ藍郎、高橋戦車、傳田うに、道園僚一、山岸門人、政岡泰志(動物電気