(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「翼をくださいっ! さらばYS-11」ギンギラ太陽's 東京アンコール公演

東京初見参だった前回(2005年パルコ劇場)は、同年3月の福岡西方沖地震で地元公演の一部が流れたことがきっかけだったというのを、今回の主宰の終演後挨拶で知った。なるほど、そういうことだったんですか。ギンギラ太陽'sは地元福岡に根を下ろすかぶりもの劇団だが、わたしは初見。劇団の代表作の、時代の変遷をも踏まえた改訂版を引っさげ、東京でのアンコール公演である。
空の自由化とともに登場した航空会社スカイマークは、長い経営低迷のトンネルを抜け黒字に転じたのをきっかけに、5機目の自社機を購入した。先輩のジェット機たちは、今は使われていない雁ノ巣飛行場に新米機を呼び出し、かつての苦労話を聞かせることを慣わしにしていた。
開業当時、先行する大手3社に散々舐めさせられた辛酸の数々。しかし、大手の航空会社とて、戦後しばらくの間は国土上空を日本機が飛べないという状況に苦しんだ時代があった。1998年、スカイマークはようやく1号機を飛ばすが、たちまちピンチ。じょんぼりする1号機の前に、某国のチャーター機として引退後の余生を送っている国産プロペラ機YS-11が現れ、励ましの声をかける。しかし、YS-11には、実はある思惑があって。
人間を一切登場させないという無茶にも、無生物に命を吹くこむような手法の温かさがある。飛行機や建築物などを可愛く頭にかぶった役者たちの人懐こさにまず心が和むが、しかし、その一見柔らかな舞台づくりの裏側には、豊かな物語性が広がっている。
航空業界の現実をふまえた社会性、戦後の航空史を俯瞰する歴史性といった問題意識をしっかりと視点に捉えながら、そこに繰り広げられるのは、かつての栄光を忘れることができない者と時の流れの残酷さをめぐる物語である。戦時中の特攻のエピソードなどを絡めながらも、露骨な反戦色が前に出てこないのもいい。
話題の選び方や固有名詞など、九州、福岡のローカル色が時に顔を出すが、スタンダードな面白さは文句なしに全国区のものだろう。スモークの雲海を下に見て、編隊を組むようにならんだ飛行機たちが気持ち良さげに交信のやりとりする場面は、実に感動的。こういう劇団を地元に擁する福岡の演劇ファンが、本当に羨ましいですねぇ。(120分)※14日まで。

■データ
開演前の西鉄やくざバス軍団の出し物がいい感じに客席を温める初日ソワレ/天王洲銀河劇場(旧アートスフィア)
1・9〜1・14
作・演出/大塚ムネト
出演者/大塚ムネト、立石義江、杉山英美、上田裕子、中村卓二(P.T.STAGEDOOR)、古賀今日子(che carino!/che carina!)、中島荘太(劇団「坂口(仮)」)、彰田新平、林雄大(アクティブハカタ)、吉田淳、石丸明裕