(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「手オノをもってあつまれ!」スロウライダー第10回公演

前回公演の評判は決して悪いものではなかったが、個人的には彼らの放つ魔性のようなものが、劇場空間の魔(三鷹芸術文化センター星のホールの広すぎる空間)に跳ね返されてしまった感のあったスロウライダー。年が明けての第一弾は、晴れのシアタートップスでの新作公演。
国勢の衰え著しい近未来。舞台は、日本の最南端に位置する海に面した工業都市である。ブラジル系多国籍企業のノイチは、この町の地場産業だった黒糖メーカーを合併吸収し、ショロ草を原料にバイオエタノールを大量生産している。一方、町の中にある虹ヶ丘団地は、荒れ果ててスラム化している。団地には、ノイチの下級労働者が住みついているが、一方で「13日」を名乗る反ノイチ派も暗躍しており、極端に治安は悪化している。
ミッチ(金子岳憲)は、ショロ草刈りが仕事の労働者の一人。ヘル子(松浦和香子)とは恋人の間柄だが、彼女は環境ホルモン汚染で顔が崩れ、エレファントマンのように紙袋を被らねばならなくなっていた。事態はふたりにとって深刻で、ミッチはヘル子の顔を見ると笑ってしまうために、キスもできない。ヘル子の提案で、ふたりはヴードゥーの使い手サダコさん(石川ユリコ)のもとを訪れるが。
いや、これは手強い。終演後に購入した上演台本を帰りの電車の中で読んで、ようやく輪郭は見えてきたような気がするが、どこまで判ったか正直自信がない。おそらくは、前述した虹ヶ丘団地での出来事は、ネットゲーム上の出来事に過ぎないのだ。なるほど、そういう見方をすれば、腑に落ちる箇所もいくつかあるような気がする。
間違いを怖れずにいうなら、リアルのシーンはたった一箇所。そこで、主人公は恋人を亡くしており、ゲームに逃避していることが暗示される。しかし、そうまでして物語を遠くに配置する必要がどこまであるか、ちょっと疑問でもある。一瞬ゆえの美しさはアリだとは思うのだけれども、描き方が非常に曖昧。もう半歩でも観客の側に寄れば、かなり理解がしやすくなると思うのだが。
しかし、シーンのひとつひとつは非常に印象的。虹ヶ丘を舞台に、ヴァーチャルな世界の物語に終始しても、十分に面白い内容になったろう。開演前に観た舞台上の白を基調とした舞台装置も、まぶしいくらいに素敵だった。役者では、多士済々の客演陣がいい仕事をしているが、とりわけ拙者ムニエルからの石川ユリコが期待通りの怪演をみせてくれて、拍手拍手。(120分)

■データ
前日に予約したのに最前列だった最終日マチネ/新宿シアタートップス
1・4〜1・7
作・演出/山中隆次郎
出演/山中隆次郎、數間優一、日下部そう(ポかリン記憶舎)、金子岳憲(ハイバイ)、町田水城(はえぎわ)、山口奈緒子(明日図鑑)、松浦和香子、石川ユリ子(拙者ムニエル)、山田伊久磨(エッヘ)、多門勝(THE SHAMPOO HAT)、芦原健介、田中慎一郎