(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「スチュワーデスデス」クロムモリブデン

この芝居の前売りで珍しくチケットぴあを利用したら、売り場で発券の際に「今回は重実百合さんのご出演はありませんが、よろしいでしょうか?」と、心を見透かされたように、念押しをされました。「え?」と言葉に詰まったわたしもわたしだが、しかし、いちいち丁寧にそんなことを確認してくれてるのか、チケットぴあ!もしかして、彼女をフィーチャーしたちらしを観てチケ買ったファンから、苦情が殺到してるのかもしれないなぁ。というわけで、重実だけでなく、木村美月もいない、ちょっと寂しいクロムの新作。
通りがかりに女子高校生2人を殺し、死刑判決を受けた殺人犯の高田(森下亮)。しかし、刑の執行を前に、彼は深い昏睡状態に陥ってしまった。友人二人を殺された少女(金沢涼恵)と被害者の兄(板橋薔薇之介)は、殺し屋(板倉チヒロ)を雇い、犯人を刑務所から誘拐し、自らの手で犯人を処刑しようと決意する。
殺し屋の命令で手下のドレミ(奥田ワレタ)は刑務所へ向かうが、その途中でもう一方の被害者の兄ガナリ(久保貫太郎)と遭遇、すでに彼が誘拐していた高田をアジトに連れ帰る。しかし、いざ殺すとなると、躊躇する依頼人のふたり。まずは眠っている高田の心の中を覗こうと、ドレミの不思議な能力で殺人犯の心に中に入り込む。しかし、そこで高田の中に、苦しむ人々を雲上の天国に連れて行ってくれる殺人鬼スチュワーデスデスの意外な姿を見つける。
てっきり「スチュワーデスです。」だと思ったら、「スチュワーデス death」だったんですね。殺人事件の被害者から入って、殺人鬼の素顔、善と悪、死刑の是非、そして苛めや近親相姦など現代社会の病んだ病巣という社会派のテーマの飛び石を、実にテンポよくスキップしていく展開で、観客を飽かさないのはさすが。
女子高生の仲良しグループや、彼女らの家庭環境、殺し屋とドレミの関係をめぐり、ネガがポジに変わるようなミステリの意外な真相的な一瞬があちこちにあって、緊張感を高めるのもいい。終盤、スチュワーデスデスの正体が善と悪の間で揺れ動くあたりも、クライマックスに繋がるシーンとして十分見応えがあった。
わたしがクロムモリブデンを見始めたのは前々作の「猿の惑星は地球」で、まだ日が浅いが、これまでどうしてもついていけなかったある種の飛躍がないのも、今回は馴染み易かったかもしれない。わたし的には、これまででもっとも好みの作品。上演時間がやや短いのは、むしろプラスに作用し、コンパクトにまとまった印象。ただ、ラストで森下が暴れる場面は、やや前作と印象がかぶってしまったような。(90分)※1月8日まで。

■データ
客席の椅子の配置が悪く、D列からは低い位置での芝居が観れなかったマチネ/下北沢駅前劇場
12・28〜1・8(東京公演)※大阪公演は終了
作・演出/青木秀樹
出演/森下亮、金沢涼恵、板倉チヒロ、奥田ワレタ、板橋薔薇之介、久保貫太郎、渡邉とかげ、葛木英(メタリック農家)