(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「ビューティ・クイーン・オブ・リナーン」パルコ・プロデュース公演

1971年生まれのマーティン・マクドナーを、ひと世代下の長塚圭史が演出するパルコ・プロデュースのパート3。「ウィー・トーマス」(2003年と2006年)、「ピローマン」(2004年)に続くのは、マクドナーのデビュー作で、リナーン三部作の一角をなすという「ビューティ・クイーン・オブ・リナーン」。
北アイルランドの田舎町リナーンで老いた母マッグ(白石加代子)の面倒を見ながら暮らす娘のモーリーン(大竹しのぶ)。彼女は三姉妹の長女だが、ちゃっかりと嫁に行ってしまった妹たちから取り残され、母親との二人暮しを強いられている。マッグはなにかと娘を支配したがる一方で、身の回りのことは娘に甘え放題。モーリーンは母親といることにほとほと疲れ、田舎町での生活にも嫌気がさしている。
貧しく退屈なリナーンを出て、ロンドンで働くパートー(田中哲司)のパーティに招かれたモーリーンは、招待状を母親に燃やされるが、たまたま出会ったバーティの弟レイ(長塚圭史)から直接聞かされ、ことなきをえる。新しいドレスを着て、いそいそとパーティに出かけたモーリーンは、その晩、パートーを連れ帰り、一夜をともにする。しかし、翌朝、昨晩のことを知ったマッグは、秘密にしていた娘の病歴をパーティに聞かせ、しばらくたって彼から届いたモーリーンあての手紙を、再び火にくべてしまう。
シンプルながら力強い物語、しかも相当に面白い。大竹しのぶの役柄は、またもやの感がなきにしもあらずだが、しかし、やはりうまい。二幕目の中盤にあるハイライトシーンは圧巻で、何かに突き動かされるかのように暴走する中年女の姿には、いつものことながら鬼気迫るものがある。
一方、白石加代子もさすがの貫禄で、それに応酬。悪意とよぶにはあまりに人間らしい老いた母親を、実に個性的に演じている。母と娘が散らす火花が、次第に緊張感をはらんでいく展開は、まさにミステリ劇のサスペンスと同質のもので、その後の意表をつく展開も、そういう観方をする観客の期待を裏切らない。ラストに流れるラジオ放送の余韻も、激しい物語を締めくくるに相応しい印象の深さだ。(休憩20分を挟んで140分)※30日まで。その後、大阪公演あり。

■データ
アイルランドの菓子にちょっと詳しくなったソワレ/渋谷パルコ劇場
12・7〜12・30
作/マーティン・マクドナー (翻訳/目黒条) 演出/長塚圭史
出演/大竹しのぶ白石加代子田中哲司長塚圭史