(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「キル」野田地図(NODAMAP)第13回公演

羽野晶紀(94年)、深津絵里(97年)ときて、広末涼子がヒロインのシルク役のバトンを受け取った再々演。わたしは、おそらく初演を観ている筈なのだが、情けないことにほとんど記憶に残っていない、嗚呼。
舞台の羊の国とは、おそらくモンゴルのこと。腕のいい洋服屋の息子として生れたテムジン(妻夫木聡)は、ファッション戦争で命をおとした父を継いで、「蒼き狼」というブランドの旗印のもと、世界を制覇する野望を抱く。羊毛を素材とした服で、着々とファッション界をリードしていくテムジン。やがて、絹の国(おそらく中国)の娘シルク(広末涼子)を見初め、敵国に攻め入って彼女を手に入れる。
そして、テムジンとシルクの間に、息子のバンリ(野田秀樹)が誕生。しかし、世界制覇へと邁進するテムジンの心に、ふとした不安が芽生える。自分は、やがて才能ある息子にとって代わられるのではないかと。さらには、「蒼き狼」を駆逐する勢いで、謎のブランド「蒼い狼」が出現。息子と新ブランドの双方を潰す思惑で、テムジンはバンリを討伐に派遣するが、息子は消息を絶ってしまう。そして、ついに「蒼い狼」との最終対決の時がやってくる。
布地や垂れ幕をふんだんに使った舞台装置、役者たちのカラフルな衣装と、ファッションというテーマを視覚的にみせる、華やかで見映えの舞台だ。二世代にわたって繰り返される親と子どもの確執のドラマがくっきりと描かれ、それは時に家族(夫婦)という単純で複雑な人間関係にも及ぶ。
部分部分には、言葉遊びの押し付けなどが鼻につくところもあるが、主題にも物語の流れにも、シンプルな力強さがあって、ストレートな見応えがある仕上がりだと思った。とりわけ、誕生と死のふたつのイメージが交錯するラスト近くのシーンは圧巻で、感動的。
新ヒロインの広末涼子も上出来で、表情の豊かさや、台詞の可愛さで観客を魅了し、動きも悪くない。舞台初挑戦という妻夫木聡も、心配をよそに手堅く主役をこなしていると思う。彼らの活躍はもちろん、堅実な脇役陣の支えあってのものだが、欲をいえば所属劇団の本公演をパスしてまでこちらに出ている村岡希美や高田聖子に、もう少し花を持たせる場面も観たかった。いや、欲張りはのは重々承知での話だが。
それにしても、過去には渡辺いっけい古田新太が演じていた結髪役の勝村政信はさすがで、出ずっぱりで難しい役を活き活きとこなして、物語の流れを円滑にしている。今回の舞台の成功は、広末涼子の可愛らしいヒロイン役とともに、彼の働きが大きいと思う。(休憩20分を挟んで150分)※1月31日まで。

■データ
広末涼子を観るにはL列は後すぎたソワレ/渋谷シアターコクーン
12・7〜1・31
作・演出/野田秀樹
出演/妻夫木聡広末涼子勝村政信、高田聖子(劇団☆新感線)、村岡希美NYLON100℃)、山田まりや、市川しんぺー(猫のホテル)、中山祐一朗阿佐ヶ谷スパイダース)、小林勝也高橋恵子野田秀樹