(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「AC/DC WORLD’S END SCHOOL GIRL!!!!!!」バジリコFバジオ

ユニークな作中人形劇やちらしのアートワークが印象的な個性派バジリコFバジオ。前回公演しか観ていないのであまり偉そうなことはいえないのだけれど、個人的にはこの劇団のステップボードにもなりうると見受けた今回の新作。
ゴルゴタの丘から逃れたキリストがこの地に辿り着いたという伝説が今も伝えられる青森県七戯市。隠れキリシタンの歴史を背負ったこの田舎町の高校に、東京から転校生がやってきた。彼女の名は、智天アコ(田中あつこ)。登校初日に同じ名の快活な少女、蔵五十アコ(宮本奈津子)と出会い、ふたりは親友になった。
しかし、蔵五十アコには不思議な過去があった。6年前に気まぐれ桜の前で、彼女の身に何かが起こった。しかし彼女をはじめとして関係者はその時の記憶をなくし、事件は謎に包まれている。やがて、町にミサイルが落下し、多数の被害者を出す騒ぎとなる。人気を誇るハシエンダという謎のコミュニティ・サイト、恐山文書を解読し救世主の出現を喧伝する高校生巫女の暗躍、と謎が多いこの町で、一体何が起きようとしているのか。都市伝説研究家の黒須ダイスケ(吉井俊輔)は、それを突きとめようと奔走するが。
初見の前作で、そのファニィな物語世界が気に入り、さっそくブックマークを入れた劇団だが、2作目で早くも決定打が出たという感じ。前半ラブコメ、後半伝奇スリラーという入りと出がまったく違う構造を繋ぐのが、ヒロインの一方、蔵五十アコである。彼女の恋への憧れが、性的な妄想へシフトし、それがふたつの世界を見事に橋渡ししていく。
素晴らしいと思ったのは、入り組みながらも観客を深みへと引っぱっていく強力な物語の面白さで、ときに負荷をかけすぎてショートしてしまう一幕もあるのだが、そんな疵に拘る隙を与えない強引な語りの力のようなものを感じた。とりわけ、散りばめた伝奇小説のガジェットを、一気に束ねてみせる終盤は見事。得体のしれないドキドキ感が心に広がっていく快感を楽しんだ。
しかし、手放しで褒められるかというとそうも行かず、依然ぎくしゃくした展開で白ける場面も散見される。アイデアを消化しきれない詰めの甘さや雑な作りが目につくところもあり、茶番と紙一重という危うさもある。丁寧な演出など、劇団全体のレベルアップを是非お願いしたい。
ともあれ、上演時間2時間の枠に、無理やりとはいえ、この面白さを押し込めたパワーに感服。ふたりのアコが醸しだすほのかな叙情もいいし、木下実香演じる刑事役の狂言回しもうまく機能していたと思う。予定調和に妥協することなく、破天荒なこの道を突き進んでもらいたいと思う。(120分)

■データ
新井薬師駅前の古書店でいい買い物をしたあとのソワレ/中野ウエストエンドスタジオ
11・16〜11・20
作・演出/佐々木充郭
出演/木下実香、鈴真紀史(はえぎわ)、宮本奈津美(味わい堂々)、田中あつこ、豊田裕樹、近藤佳秀、三枝貴志、樋山剛一、玉川晋吾、野仲真司(もざいく人間)、中込恭史、横島裕(もざいく人間)、百地香織、武田諭、吉井俊輔