(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「キリエ・カルテット」兎町十三番地04公演

兎町十三番地は、大阪芸大の学生とOBで2005年3月に旗揚げ。劇団名にもなっている架空の町「兎町十三番地」をキーワードとした、地元大阪での過去3度の公演はなかなかの評判をとったようで、今回はめでたく東京へも進出の運びとなったようだ。
コハル、ナツキ、アキハ、ミフユは、その名のとおり四季を司る役目を負った4姉妹の巫女たち。天岩戸の神話にも登場するアメノウズメが、彼女たちのルーツだ。遥か孤島の生活を送っていた彼女たちだが、それぞれの思いで本土の都会へと旅立った彼女たちを待ち受けていたのは、男たちとの甘美な出会いと苦い別れだった。
折りしも、終わることのない日蝕が世界中を覆い、人々を恐慌に陥れた。神の摂理か、それとも偶然か、姉妹たちは再び集められ、終わりなき闇から世界を救う使命を与えられる。しかし、彼女たちの前途に待ち受けるのは、都会に棄ててきた筈の秘められた過去との苦渋に満ちた対峙だった。
主宰者と思われる人物が兎の耳をつけて前説に登場したのには、正直ちょっとひいたが、始まってみればラノベ調ファンタジーで、メイド服の少女たちも登場する。テンポ良く進む物語も、出だしこそ複雑な構造かと思わせるが、思いのほかシンプルで、四人の巫女たちをめぐる過去への旅の物語へとシフトしていく。
過去の物語を含めて、いずれの公演も兎町十三番地という同じ場所を共通にしているようだが、物語としてはそれぞれ独立しているとの由。しかし、背景に登場する複数のアリスや、彼女たちが属するアリス機関(?)、そしてエピローグにおける新しいアリスの誕生(発見?)などは、共通の世界観に支配された連作であることが察せられる。
お洒落でポップな舞台は、観ているだけで楽しいが、特筆すべきはメンバーたちの歌とダンスが総じてレベルが高いことで、ソロをとるヒロインの中には、歌い手のしての華を感じさせる達者な役者が複数いることだ。これは、彼らの強力な武器だろう。ややメリハリに欠ける感じはあるが、曲もいい。
ただ、物語に意外と奥行きがないところに物足りなさがないではない。そのあたりは、連作としての伏線と思われる箇所もあり、これから次第に浮かびあがらせていく狙いがあるのだろうが、一作毎にもう少し掘り下げがあってもいいだろう。それと、客が楽しめない、意味のない客いじりは不要。幕間を入れるなら、何か工夫が必要だ。
しかし、ミュージカル系のカンパニーとしてはかなりの個性派で、今後のゆくえが非常に楽しみ。次回公演は、大阪のみのようだけれど、ぜひまた東京に来てくださいな。(120分)

■データ
おお、ソファ席もあるんですね、びっくりの最終日マチネ/新宿シアターモリエール
11・2〜11・4(東京公演)
作・演出/中川昌紀
出演/広川文、新良エツ子、藤本有加、谷口ゆうな、宿南麻衣、吉田憲章、興津和幸、福地教光、杉渕瑠璃、高依ナヲミ、指地図子(少女崇拝)、中沢喬弘、佐々木悠二、顎(まこと)、伊地田周作、樋口未芳子、冨士谷和子、松本まり(ザ・ブロードキャストショウ) 山本亜矢子
舞台監督/飯田勝士(F〜Fukyou和音。) 照明/加藤直子(DASH COMPANY) 音響/谷口大輔(T&Crew) 劇中曲/吉田匡博、後藤浩明 衣装・小道具/兎町十三番地 美術制作/アベナカコ ヘアメイク/原田千冬 宣伝美術/Luxury style 写真/玉置謙一耦 広報/村上健司 記録/松田健太郎 制作/斎藤努鈴木彩子 総括/相原薫