(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「Caesiumberry Jam」DULL-COLORED POP vol.5

2005年11月、騒動舎にいた主宰の谷賢一を中心に旗揚げした、まだ2年足らずのユニット。しかし、今春の前回公演はネット上での劇評も悪くなく、清水那保が時間堂の「ピンポン、のような」に客演したり(谷は演出助手として参画)、じわりじわりとその知名度をあげてきている。わたしは、5月に高円寺UFOクラブのイベントで上演された「息をひそめて」(短編?)がソールドアウトで観られなかったのが悔しく、今回公演は事前にしっかりとマークしていました。
舞台は、ロシアのある寒村。過疎が急激に進み、なぜか役所から監視の人間も派遣されてきていて、どこか異様な空気が漂っている。やがて、村が寂れた原因は、過去のある惨事が影を落としていることがわかってくる。動物を撃ち殺す役人、村人の食卓での会話からは食物も何か汚染の疑いもあることが窺われる。
新しい命の誕生を楽しみにしている若い夫婦や都会の大学で学ぼうとする若者もいて、希望の芽吹きもあるのだが、村の衰退は止めることができない。主人公のカメラマンは、毎年のようにこの村を訪れ、その模様を克明に心に刻み、写真に記録していた。そして10余年が過ぎ、彼のもとをひとりのロシア人が訪れる。
ひと言でいえば社会派。もうお判りとは思うが、過去の惨事とは1986年に起きたチェルノブイリ原発事故であり、折り重なるソビエト政府の対応悪さから多数の被害を出し(そして、それが今も続いている)悲劇が俎上に上げられている。
つきつめれば人の命に行き着く物語に、実際の土を舞台に持ち込んだのは、大きな成功だと思う。生命の根源を象徴する大地の上で繰り広げられる人々の営み、そして生と死の物語が、しっかりとした質感を湛えているのは、この舞台仕様に負う所が大きい。
物語としては暗くなるしかなく、ややもすると停滞しがちなのだが、時にひょいと顔を出す飄々としたユーモア感覚が面白い。実に効果的に、物語の進行の後押しをしているし、対比として悲劇的なテーマをより明確に浮かび上がらせる効果もあげていると思う。
先の神様プロデュースでミリタリーおたくを演じて強い印象を残した太田守信が、ここでも物語の案内人のひとりとして、面白い個性を放っている。遠い異国の物語が、やけに身近なものに思えるのは、彼の演じる役人の人間臭さと無縁ではないだろう。(120分)

■データ
椅子席オプション(500円)をもう少し差別化してほしいと思ったマチネ/新宿タイニィアリス
10・12〜10・15
作・演出/谷賢一
出演/堀奈津美、清水那保、太田守信(劇団ギリギリエリンギ)、菅野貴夫、危村武志(巌鉄)、滝井麻美、ハマカワフミエ(3WD)、待村朋子(第弐牡丹)、和知龍範(fool-fish)、片山響子、澁谷美香(騒動舎