(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「慈善MUST BE DIE」MCR

劇団ホームページによれば、旗揚げは1994年で、その時の名は「殺害塩化ゴム」だったという。さすがにそれではまずかろうということで、無理やり英語に置き換えてMCR(Murder Chloride Rubber)になったとのことだが、むべなるかな。作、演出の櫻井智也(ドリル)を中心に公演実績を積み重ねており、今年に入ってからはMCR LABOと題して精力的に4回もの公演を行っているが、今回はほぼ1年ぶりの本公演となる。
マンションの一室に横たわる女の子の死体と、それを見下ろすふたりの男。彼らは、ストーカーとその友人で、パニクる彼女ともみ合ううちに、誤って殺してしまった。そこに、3人目の友人が駆けつけるが、事態を収拾する方法はない。
しかし、そんな頃、世間はとんでもないことになっていた。何が原因かは判らぬが、ゾンビが大量に発生し、町のいたるところで人間を襲っていたのだ。見知らぬ男ふたりが、3人のいる部屋に窓から逃げ込んでくるが、男の片方はすでにゾンビに噛まれていた。一人じゃ寂しいから、とほかの者に噛みつく男。部屋中は、たちまち大パニックに。
ゾンビに噛まれた者は、静かにゾンビになっていく。そういうルールに支配された世界で、さまざまな(それも極端な)状況にある男と女を描いていく。死んだ女を一途に愛し続けるストーカー、インポのために恋人と一線を越えられない男と、それを男の冷たさと誤解するその恋人、ひたすらラブラブで脳天気なカップルらが交互に登場する。
ひとつひとつがよく出来たコント仕様になっている。それがテンポ良く切り替わっていき、観客を飽かせない。前半は、テレビ番組を見ているようなお手軽さを感じる場面もあるが、やがてゾンビに噛まれた登場人物たちの体に変化が現れはじめる終盤に、それぞれが心を覗かせる一瞬が、切なさを滲ませ良い。
ただし、作者には悲劇をウェットなまま終わらせない才がある。幕がおりる瞬間の物語の引き際のドライな感じが見事だと思う。(90分)

■データ
はっきりしない天候の中の休日マチネ、後方に空席あり/中野ザ・ポケット
10・3〜10・14
作・演出/ドリル
出演/北島広貴、上田楓子、伊達香苗、宮本拓也、櫻井智也、有川マコト(絶対王様)、中川智明、小野ゆたか(パラドックス定数)、諌山幸治(ブラジル)、山田奈々子、石沢美和(SQUASH)、星野友紀