(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「Mirror」jorro vol.6

前作「トライアウト」で、役者たちが台詞をゼロから模索していくというこのユニットの手法は、すでにある程度の完成を見ていたように思う。ただ、米村亮太朗や河西裕介の客演があったせいか、ポツドールを連想させたあたりが、もしかして彼らのオリジナリティをやや見えにくくしていたかもしれない。そのあたりを踏まえたかのような、ほぼ5か月ぶりの新作公演。
ロフト風、しかしどこかチープな作りのワンルーム(おそらく赤羽)で暮らす二十代前半と思われる女性。部屋には、男女を問わない友人たちが入れ替わりやってきて、彼女の毎日は賑やかなようだ。しかし、仲良くつるんでいた友人たちとの関係とて、やがて変っていかざるをえない。親が倒れ故郷へ帰る者、離婚して妻子と別れた者、出来ちゃった婚に進むカップルなどなど。そして、彼女にも転機がやってきて。
前作で、存在感の希薄な女性の役が印象的だった林弥生が、ひとり暮らしのヒロイン晴香の役をいい感じで演じている。彼女の生き方は、時間の流れに身を任せているような捉えどころのないものにも見えるが、やがていくつかの断片的な物語から、生来の人懐こさや、芯の強さのようなものが見えてくる。
オムニバスともいうべき複数の場面からなる物語では、劇的な出来事は一切起きないが、ひとつひとつの場面に不思議な臨場感がある。これは、台詞を自分達の言葉で作り上げていくという作業の大きな成果だろう。
ありふれた日常からすくいあげられるエピソードのひとつひとつは、非常に濃密だ。時系列のルールを乱して、途中、さりげなく差し挟まれるたったひとつ過去の場面も鮮烈で、緩い物語の流れの中で、スパイスの役割を果たしている。
台本に台詞のない演劇は、今回でひとつの達成を見たのではないか。その彼らが、次にそれをどう押し進めるのか、興味あるところだ。(85分)※8日まで。

■データ
岩瀬亮も最前列で見ていた初日ソワレ/王子小劇場
10・4〜10・8
脚本・演出/富田恭史
出演/畑雅之、佐々木保、林弥生、脇坂圭一郎、青木宏幸、しよな、仁志園泰博、志水衿子、井上幸太郎、江原大介、鷲尾英彰、美館智範
舞台監督/渡辺陽一 舞台美術/尾崎智紗/袴田長武(ハカマ団) 照明/工藤雅弘(Fantasista?ish) 音響/井川佳代 宣伝美術/花井賢太郎 演出助手/五十嵐祭旅 web/長瀬哲規 制作/佐藤秀香 制作協力/木下京子/舞野くるみ(Karte)