(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「過剰サスペンス劇場/家政婦はいた」マダマダムーンプロデュース

脱力系のなんともいえない存在感で、独自のステータスを築きつつあるロリータ男爵の丹野晶子だが、その彼女を主演に迎えたマダマダムーンのプロデュース公演である。客入れの音楽に、懐かしの火曜サスペンス劇場のテーマソングが流れる中、室内がブルーに統一された一家のダイニングルームで、物語の幕があがる。
互いに子連れで再婚し、人生の再スタートをきった男女は、中古の小さな一戸建てを購入した。妻(ザンヨウコ)は外で働き、夫(山田伊久磨)は主夫として家を守っている。そんな一家に、家政婦(丹野晶子)が斡旋所から売り込みにやってきた。なんでも、無料キャンペーン中だという。家族がひとつにまとまることを彼女に託す思いで、夫は妻に無断で彼女を雇い入れるが
夫の娘(内山奈々)は引き篭り、妻の娘(武田真由美)は虚言癖と、夫婦はそれぞれ連れ子に悩みを抱えている。家政婦の手腕で、家族はいい方向に向かうかに見えたが、しかしこの家政婦には実はとんでもない秘密があった。
ハートウォーミングな家族ドラマ調に進む物語が、微妙にその歯車を狂わせはじめる中盤からの緊張感が見事。なるほど、過剰サスペンス劇場とは、看板に偽りなし。わたしは客席から観ていて、このまま物語が崩壊してしまうのではないかという不安にかられました。
しかし、その後の強引といえばあまりに強引な展開を、意外と違和感なく受け容れられるのは、作者の物語世界の作りこみが徹底して虚構に淫しているからだろう。ありえない展開のつるべうちで、強引に着地点を探す終盤の展開は、素晴らしいのひと言。伏線も巧みな米山和仁の脚本、いやぁ感心、感心。
それにしても、どんな場面でも、表情と口調を変えないですね、丹野晶子。お笑いと紙一重の怖さで、異色のヒロインを演じた彼女には、ただただ拍手を送るのみだ。(120分)※10月1日まで。

■データ
そうか、ブルーはそういう意味だったのかと膝を打った初日ソワレ/新宿御苑サンモールスタジオ
9・27〜10・1
作・演出/米山和仁(ホチキス)
出演/丹野晶子(ロリータ男爵)、山田伊久磨(エッヘ)、ザンヨウコ(危婦人)、内山奈々(チャリT企画)、武田真由美