(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「殺ROCK ME!〜サロメ〜」劇団鹿殺し 第16回公演

わたしの記憶している範囲では、東京進出後、新宿ゴールデン街劇場、タイニィアリス、ザムザ阿佐ヶ谷シアターグリーンこまばアゴラ劇場と、まさに出世魚のように、都内に主だった劇場の階段を駆け上がってきた感のある劇団鹿殺し。「すけだち」、「魔人現る」と続いたこの夏の鹿殺し3連発のラストは、劇団としても勝負の作品で、いよいよ、中規模のスペースゼロへの進出。演目は、タイニィアリスにかけた「SALOMEEEEEEE!!!」の改題、再演である。
近未来の日本が舞台。少女サロメ(菜月チョビ)は、その魅力ゆえに、義父であり国王のエロド(中村まこと)の手によって幼い頃から城の塔に幽閉されていた。あるとき、月の男爵(江戸川卍丸)の手引きで、外の世界へとさまよい出た彼女は、たまたま出会った僕(丸尾丸一郎)のあとを付け、生まれて初めて学校で授業を受けることに。やがて、世間を知り始めたサロメは、城に幽閉されていた預言者ヨカマン(加藤啓)に出会い、恋をする。
その頃、ロックミュージシャンであるイエスマン(山本聡司)は、名古屋の地でファンを巻き込み、王家のバッシングを進めていた。エロドによって囚われの身となっているヨカマンは、彼の腹心であり、バンドのベーシストでもあった。そのヨカマンを救出するため、イエスマンはバンドを率いて、東京を目指すことに。
開演前10分から、役者たちが客席に入って観客を暖める念の入れよう。日替わりゲストの豪華さや、中村まことや加藤啓といったリリーフ陣の選び方からも、本作を成功させたいという劇団の思いが十分に伝わってくる再演だ。イエスマン率いるバンドのライブで、いまどき珍しく定刻に舞台は幕をあける。スペースゼロに組み上げた大掛かりなセットを背景に、大音響を響かせるオープニングである。
しかし、それらの取り組みは、観客を飽かせないという意味で、それなりに成果を挙げているとはいうものの、どこか物足りなくも思える。盛られた豪華(会場の大きさも)を支える物語が、あまりに貧弱だからではないだろうか。革命と王政の崩壊を描くストレートさは良しとしても、もう少し話の膨らみと展開がほしいところだ。物語の貧相さを、ゲストの好演がかろうじて救っている、という印象もある。
ただ、異形のヒロインともいうべき菜月チョビが歌い、踊りだすと、一瞬にして舞台上の空気が華やかなものに変るのは素晴らしいと思った。(それが次の場面に繋がらないのは、なんとも残念だが)それと、エロド王の見る幻覚として、レオタードとサスペンダー姿の悪魔たちが続々と出てくる場面は、意味もなく愉快だった。ああいう、わけのわからなさがもっとあれば、新たなアングラともいうべき彼らの魅力がもっと前面に出てくるだろうに。(135分)

■データ
ゲストの小林健一の軽い暴走で終演時間が心配になったソワレ/新宿全労済ホールスペース・ゼロ
9・8〜9・13
作/丸尾丸一郎 演出/菜月チョビ 
出演/中村まこと猫のホテル)、加藤啓(拙者ムニエル)、山本聡司(劇団鹿殺し)、オレノグラフィティ(劇団鹿殺し)、カオティックコスモス(はえぎわ)、板倉チヒロクロムモリブデン)、江戸川卍丸(劇団上田)、リアルマッスル泉、伊藤そうあ、橘義一、田中慎一郎、谷山知宏(花組芝居)、服部絋平、馬場恒行(KAKUTA)、宮下泰幸、金子優子、丸山知佳、丸尾丸一郎、菜月チョビ
この日のゲスト/小林健一 (動物電気