(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「K(ケー)」零式第9回公演

零式は、2000年に劇作家新井哲が役者加藤めぐみとともに旗揚げ。その名の由来は、零(ゼロ)こそ、プラスとマイナスが永久に衝突し続ける此岸とのこと、なるほど。わたしは、空間ゼリーの「ゼリーの空間」で印象深かった女優岡田あがさの所属カンパニーとして気になり始めた。(現在、岡田は零式を退団?)というわけで、初見である。
アパート暮らしの若い夫婦。三畳くらいの狭いキッチンでは、得意のカレーを煮込む妻の蕾(加藤めぐみ)。一方キッチンテーブルでは、夫の暮人(石井壮太郎)がノートを広げて、詩を作っている。そんな光景が日常の仲のいいカップルだが、ある晩、蕾のカレーがいつもの味じゃない、と暮人が言いだした。どうやら出版社に送る詩を、妻が清書の際に間違ってしまったのが原因のようで。
健気にも、鍋の中のカレーの味を、必死になって調味料で整えようとする蕾。しかし、再びカレーを口にした彼は、たまには外食しよう、と繰り返すばかり。その結果、妻は自分のカレーの味に対して、すっかりすっかり自信を失ってしまう。翌日妻は、道行く人々を相手に、ちょっと奇妙なアンケート調査を始めた。
人の心はコワレモノであり、大切なものはいともあっさりと壊れてしまう。幸福のさ中にあっても、いやだからこそ、ちょっとした心の隙には、無自覚な残酷さや、独善が忍び込んでくる。予期せず、ぎくしゃくした関係に陥ってしまい、戸惑う男女を加藤めぐみと石井壮太郎が好演している。
ただし、蕾の奇妙なアンケートに応える人々が魅力に乏しく、そもそもアンケートに走るという蕾の行動自体が、現実的にも虚構的にもありえない気がして、絵空事に思えてしまう。それと、時系列を並べ替え、太田みち演じる婦警を早々に登場させるのは、衝撃的である筈のクライマックス(蕾の死)への伏線だと思うのだが、それを途中で明かしてしまうあっけなさももったいないと思う。テーマを浮かび上がらせるために、サプライズとして機能する演出があってもよかった。(100分)

■データ
マチソワのインターバルをマルディグラで過ごしたあとのソワレ/下北沢小劇場楽園
9・5〜9・10
作・演出/新井哲
出演/加藤めぐみ、石井壮太郎(ダムダム弾団)、中山玲(スターダス.21)、佐野陽一(サスペンデッズ)、太田みち、鈴木義君
舞台美術/福田暢秀(F.A.T STUDIO) 音響/高橋秀雄(SoundCube) 照明/松本 永(光円錐) 舞台監督/青木規雄  宣伝美術/小原光二(25Labo.) 小道具/橋口安那 衣装/山口 舞 制作/遠山ちあき