(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「最愛」劇団宝船情念の宴公演

人呼んで、大人のラブコメ。というわけで、テイストはとてつもなくビターだ。個人的には、8月の客演を病欠した高木珠里の元気な姿を観たくて。もちろん、宝船がわざわざ「情念の宴」と銘打つディープな世界もおおいに気にかかるところで。
どこかぱっとしないOL玉子(猫田直)に、男ができた。しかし、相手の茂(瓜生和成)は、彼女に紹介してもらったバイトも3日と続かないへなちょこ男。その挙句に、当分は創作に専念すると玉子に宣言する恥知らずだ。おまけに、この男、別に女がいる。芸術家を漠然と志望している千世(後藤飛鳥)とも寝ている。携帯を盗み見て、茂が二股をかけていることに気づいた玉子は、茂を責める。これでてっきり破局と思いきや…。
新井友香率いる劇団宝船の第4回公演は、恋の魔力のお話だ。若いうちにはロマンチックにも思えたりするこの魔力だが、「最愛」の玉子と茂に関していえば、それはもうほとんど男女を結びつける神の悪意としか思えない。別れた方がいいふたりを、かくも執拗に結びつける続ける皮肉を描いている。その挙句に、ラストシーンでは、ふたりに入籍の話がもちあがったりと、それが普遍な愛へと昇華される可能性を仄めかす。いやはや、作者は、意地悪なのか、それとも確信犯なのか!?
とにかく、玉子、茂、千世の三角関係を中心に、複雑な図形を描く男女の人間関係が愉快だ。このややこしさを、作者は明快に描く一方で、男女関係の迷宮に観客を引き込む手腕を見せる。(というわけで、人物関係図を劇団HPから引用させていただきます)

長丁場だとその突っ走り具合がややダレるところもあるが、ヒロインに個性派猫田直をひっぱってきたのは成功。瓜生は、もうまさにこの役のために生まれてきたような根無しの存在感がある。これは間違いなくあて書きだろう。
猫田と瓜生の二人を中心に、後藤飛鳥や加藤雅人もいつもの持ち味を発揮しており、最強の高木珠里と新井友香のコンビを脇に廻す余裕も吉と出ている感じ。猪突猛進的な愛をひた走る高木珠里と、ちょっとHで色気たっぷりなバーのママを演じる新井友香、どちらも観客のツボにぴったりのハマリ役だ。宝船の情念の世界、しっかりと堪能しました。(130分)

■データ
病み上がり気味ながら元気そうな高木珠里を観られてちょっと安心のマチネ/下北沢駅前劇場
作・演出/新井友香 
出演/猫田直(tsumazuki no ishi)、瓜生和成(東京タンバリン)、後藤飛鳥(五反田団)、中村たかし(宇宙レコード)、加藤雅人(ラブリーヨーヨー)、中島徹、斉木茉奈、高木珠里、新井友香
ナレーション/峯村リエNYLON100℃