(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「The Perfect Drug」smartball

ちょっと驚いたのだけれど、このブログのアクセス解析を見ると、検索キーワードのかなり上位に小倉ちひろの名が出てくる。人気あるんですね、彼女。(実はわたしも贔屓です)その唯一の所属女優小倉ちひろが去って初の公演となる名越健太郎のユニットsmartballのほぼ一年ぶりの新作。
都内の中央線沿線に出没しては、子どもばかりを残虐な手口で殺すサイコキラー。自分の娘が、その犠牲者となってしまったタイ人は、探偵の岩瀬を使って犯人をつきとめ、その中国人を制裁する。ところが、犯人は人違いだった。キレたタイ人は、岩瀬を責めつけ、真犯人を連れてくるよう命じる。一方、間違えられた中国人のコミュニティでも報復の動きが次第にエスカレートしてきて。
前作でも使っていた、舞台空間をセパレートする手法を今回も踏襲していて、いたずらに広いこのホールの舞台上を効果的に使っている。中野のタイ人のコミュニティ、大久保のレコードショップ、バンドのレンタル・スタジオ、新宿の動物病院、そして阿佐ヶ谷のマンションの一室と、五つの場面でそれぞれの物語が並行して進行していく。
それらの頂点である舞台中央の高みにおかれたグランドピアノと、その前に座る膝を抱えた裸の少女、そして口数の少ない少年が、殺伐とした物語の中で、まるで別世界にいるように存在しているのが印象的。彼ら以外の登場人物のほとんどは、どこか歪な一面を持っていて、物語の進行とともに、それが露わになってくる面白さ(というか怖さ)がある。
名越健太郎という作家の持ち味は、あくまでストーリーテリングの面白さにあると思うのだが、その点で本作は確実に前作を凌いでいる。物語の進行に、ややもすると独りよがりになりがちなところも残されているものの、やたら調子のいい探偵岩瀬や、バンドの友人に切ない思いを打ち明けるレズの女の子といった、登場人物たちの造形にも見るべきところがあって、作者の懐は意外に深いと見た。
しかしそれにしても、「The Perfect Drug」には、暴力や性描写にかなりきわどい表現がかなりあって、観ている側もハラハラさせられた。公共施設のこのホールで、このsmartballやポツドールを上演するのは、さぞかし勇気がいることだろう。しかしそれをあえてやる運営財団の取り組みには、芝居ファンとして大いに敬意を表したい。(130分)

■データ
前売りソールドアウトのソワレ/三鷹市芸術文化センター星のホール
MITAKA Next Selection 8th参加作品
9・6〜9・9
作・演出/名越健太郎
出演/青島江里子、荒木拓、石井舞、岩瀬亮、宇田川千珠子、遠藤留奈、尾倉ケント(アイサツ)、河西裕介(国分寺大人倶楽部)、坂倉奈津子、白神美央、仗桐安(RONNIE ROCKET)、露口健介、深谷由梨香(柿喰う客)、松本慎平、美館智範、横山宗和、吉水りふ、鷲尾英彰